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始まりはいつも片思い
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街には風が吹いていた。強い風だ。
朝、早くに起きたジョーイは身なりを整えて学校へと向かった。風で飛んで来る砂ぼこりに目を細めて歩いていると、足元にバサバサと音を立てる紙がしがみついた。その紙を手にとる。
"夜道には気を付けろ! お前もドーナツにされるぞ! "
黒い掠れた字でそう書かれている。ジョーイはその紙を丸めて手に握った。近くにくずかごが無いので学校まで行って捨てようと思ったのだ。
学校の門まで来たら勢いよく腰を叩かれた。
「パルコ! お前なあ! 」
駆け抜けながら叩いたままの勢いで一度ジョーイを通り越してから、にやにやと笑いながらパルコは戻ってきた。
「なあなあ、今日の新聞みたか? 」
小さく折り畳まれた新聞をどこからかとりだす、ジョーイに向けるように見せられた面には大きな見出しで"悪魔の仕業か!?捕まらない連続殺人鬼!!"と書かれている。
パルコが見せてきた事件はジョーイも知っていた。数日前からこの街で起きている連続殺人事件だ。昨日は3人目の被害者が見つかったとかで街はざわついている。
「次の被害者は誰だろうな、この学園の奴だったりして…」
「人が死んでるんだぞ。面白がることじゃない。」
冷やかすパルコにジョーイは真剣な声で言い返した。
「面白がってなんかいないさ。珍妙な事件だなと思って、お前の親父さんも大忙しだ。」
珍妙というのは確かにそうで、この殺人事件で恐ろしいのは被害者は皆心臓をくりぬかれているという点だ。なので新聞記者などのメディアは異常者の仕業、悪魔の生け贄、ドーナツ殺人事件などと不安を煽るように騒ぎ立てている。
「父さんは忙しそうだよ。昔からそうといえばそうだけどね。」
パルコに話しながら学校の入り口に向かう。
「おはよう、ジョーイ」
目の前から声がすると二人は新聞から目を離し前をみた。ブロンドのふんわりした髪をなびかせて歌うような声で話しかけてきたのはジェニカだ。
「おはよう、ジェニカ」
「ジェニー、俺におはようは? 」
「ごめんごめん、忘れたわけじゃないのよパルコ。」ふふっと笑いながらジェニカはジョーイの隣に並んだ。
「朝から物騒なものみてるのね。」
2人が読んでいた新聞記事を覗き込むとため息をつく。
「早く犯人捕まらないかしら。」
「気を付けろよジェニー、夜に一人で歩かない方がいいぞ。」
パルコは両手をを開きジェニカに向けて指を蛇のように踊らせた。
「そうね。もし私が殺人鬼に襲われそうになったら、その時は助けてくれるわよねジョーイ? 」
ジェニカはジョーイに肩を寄せて顔を覗き込むように見つめた。
「もちろんだよ。殺人鬼に襲われそうになっていたら、君の手を取って逃げるさ。」
ジョーイは頷いてジェニカを見つめ返した。
「よかったあ! じゃあまた後でね私の騎士くん。」
前方に女友達を見つけると、ジェニカは手をふって駆けていってしまった。
「おい見たか、今のあいつ。完全に俺の存在を認識できてなかったぞ。俺、ステルス機能ついてたかな。」
キョロキョロと自分の体をみるパルコ。
「また後でって、今日僕は一限出たら帰るんだけどな。ま、いいか。」
「女泣かせな奴。優しくするくせに興味ないんだから。お前のそう言う所嫌いだぜ。」パルコは苦い顔をした。
「当たり前の回答をしただけだろ。それは被害者が彼女だろうと、知らない老人だろうととる行動は同じだよ。」
パルコは目を細めて親友にありったけの嫌みをのせて睨んだ。
「それがわるい。」
「ジェニカが僕に気があるってはなんとなくわかるよ、僕も好きな人には積極的に話しかけたり会ったりしたいからね。」
ジョーイは脳裏に好きな人を思い浮かべていた。
もし殺人鬼が現れたとして、彼が助けてくれたらどんなに嬉しいことか、いやもし逆に彼が襲われそうになっていたらそれこそ全力で彼を守りたいものだ。
「おっ、意味深だな。」
パルコはにやにやとしてジョーイの顔を覗き込んだ。
「もしかしてお前恋人でも…」とパルコが言いかけたとたん、校内に鐘の音が響いて二人は慌てて走り出し校舎の奥へと消えていった。
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