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1ー1 ※side T
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目映い光の中、重い瞼をゆっくり開く。
その瞳に映ったのは、いつもとは違った世界で……
明るい日差しを取り込む一面の大きな硝子窓に、細かい細工が施された天井と、身体が沈んでしまいそうになるくらい、フカフカで柔らかな布団。
何もかもが自分の住む世界とは違っていた。
何故自分がここにいるのかさえ、覚醒しきらない脳では分からなくて、身体を起こそうとしたら、全身を鈍い痛みが襲った。
その時になって漸く気付いたんだ、
あぁ…、夢じゃなかったんだ、って。
悪夢のように残酷な現実が、まるで先の鋭いナイフで突き付けられたような、そんな瞬間だった。
「うっ、く……」
身体に感じる痛みでもなく、ただただ悔しさに涙が次々溢れては頬を伝い、やがてシンと静まり返った部屋には、硬く食い縛った口から溢れる嗚咽だけがやたらと大きく響いた。
ことの始まりは、ある日届いた高校の同窓会への出欠葉書だった。
締め切りは明後日に迫っているというのに、未だ返信出来ずにいたのは、この葉書に記載された、
『参加費用5000円』の一文が原因だった。
会場がホテルの大広間、ってことだから、それはそれで妥当な金額なんだ、とは思うけど、ただ……
5000円か……
葉書を手にしたまま、畳に仰向けに寝転び、頭の中に今の財布の状況を思い浮かべてみる。
確か昨日コンビニでビールとカップ麺買って、その時最後の万札崩した筈だから、そうなると残りは極めて一万円に近い数字の数千円ってことになる。
出そうと思えば出せなくもない金額ではあるけど、どうすっかな……
バイトも止めちまったし……
結局、グダグタ考えてるうちに、締め切りは過ぎてしまい、俺自身葉書の存在すら忘れかけてた頃だった、懐かしい友人から電話がかかってきたのは。
『久しぶり、元気だった?』
電話の相手は、高校の同級生松下潤一で、
「うん、ホント久しぶりだね」
高校卒業直後とかは、皆連絡取り合って飯行ったり、電話したりしてたけど、それも段々少なくなって、今じゃ年賀状のやり取りすら怪しくなってきて……
だからかな、何年かぶりに聞く松下の声に、俺は懐かしさを感じずにはいられなかった。
『智樹、出してないでしょ? 出欠葉書』
電話越しに言われて思い出したけど、松下幹事だったっけ……
「あ、ごめん。悪ぃ、俺行けそうにないわ」
『何で?』
瞬間的に断りを入れたものの、理由を聞かれたって”金がないから行けない”なんて恥ずかしくって言える訳がない。
「とにかくごめん、今回は無理なんだ」
もし次の機会があれば、その時は……、そう思った。
『翔真から参加で返信貰ってるけど?』
久しぶりに聞く名前に、心臓がドクンと高鳴った。
『会いたくないの?』
会いたくないわけないじゃん……
会いたいよ、会いたくてたまらないよ……
でも、
「ごめん、ホント今無理なんだって」
正直に金がない、って言ってしまえば済む話なんだろうけど、変なところでなけなしのプライドが邪魔をする。
『わかった』
電話の向こうからの言葉に、内心ホッとするけど、それも束の間、
『じゃあさ、今からちょっと出てきてよ』
「い、今から?」
『そ、今から。 アパートの前にいるからさ』
思いもよらない言葉に、俺は呆気に取られた。
なんだそれ……(笑)
大体、松下潤一はいつも突然で、相手に拒否権を与えない奴だってことを、時間の経過とともにすっかり忘れていた。
ったく……、そんなとこは昔とちっとも変わってないんだから……
電話を切った俺は、薄い財布とアパートの鍵、携帯だけをポケットに捩じ込み玄関を出た。
ふと階下を見下ろすと、ボロアパートには到底不釣り合いな、スポーツカータイプの黒塗り高級外車が停まっていて、一際目立つ派手なファッションに身を包んだ長身の男が、ボンネットに凭れるように立っていた。
ソイツは階段を駆け下りる俺に気付くと、身を起こして片手をひょいと上げた。
松下潤一、キザな奴。
けど、そんな仕草が不思議と似合ってしまうから、余計に腹が立つ。
「相変わらずイキナリだな、お前は……」
拳で肩を軽く小突いてやると、
「そう?」
なんて軽く返しながら俺の腰に手を回し、助手席のドアを開け、車に乗るよう促してくる。
こんな風にエスコートされたら、世の中の女性の大半が勘違いするんだろうな……
ま、俺には一生かかっても無理だけど。
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