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電話を切った後、いつ眠ってしまったのか、目が覚めるとベッドに居るはずの智樹の姿がなくて……
「いてて……」
座ったまま眠ったせいか、痛む腰を摩りながら、なんとか立ち上がると、薄いガラス戸を引いた。
すると、小さなシンクに向かう智樹の姿があって、
「智樹、いつ起きたの?」
呼びかけてみるけど、反応はない。
背中を向けているから表情は見えないものの、その手にはキラリと鈍い光を放つ包丁が握られている。
まさか智樹、変なこと考えてるんじゃ……
一瞬嫌な予感が脳裏を過った。
「ちょ、智樹、アンタ何やって……」
慌てて駆け寄り、咄嗟に包丁を握る智樹の掴んだ。
でも、俺の視界に入ったのは、まな板と、そこに置かれた切りかけの白い大根で……
なんだよ、ビックリさせないでよ。
焦ったじゃん……
「和人、おはよ……」
ホッと胸を撫で下ろす俺に、若干声は掠れているけど、いつもと変わらない、おっとりした口調で返し、
「すぐ出来っから、朝飯食ってけよ?」
慣れた手つきで大根を切り終えると、コンロに置いた鍋の中に入れ、火を着けた。
「あぁ、うん。それより熱は?」
俺は智樹の額に手を伸ばした。
でも、
「多分…ない。もう大丈夫だから……」
俺の手は智樹の額に触れることなく、やんわりと払われてしまった。
多分て……
本人が大丈夫だって言うなら、それを信じるしかないか……
俺は寝室に戻り、畳の上に腰を下ろすと、開け放ったガラス戸の間から、キッチンに向かう智樹の背中を見つめた。
そうして暫く待っていると、ご飯の炊ける匂いと、味噌汁の良い匂いが狭い部屋に広がって、元々食の細い俺の食欲をそそった。
小さなテーブルに、二人で向き合って座る。
テーブルの上には大根の味噌汁と、炊き立てのご飯、そして手を付けられないままになってた唐揚げ弁当が置かれていて……
「いただきます」
二人で手を合わせ、湯気の立つ味噌汁をズズッと啜った。
猫舌の智樹らしく、俺には少し温いと感じる温度だけど、仄かに感じる味噌の甘さが口の中に広がって、幸せな気分になる。
「美味いじゃん」
「そうか、良かった……」
親指を立て、ウィンクを一つしてやると、智樹も味噌汁のお椀を手に取り、ズズッと啜り、
「ホントだ…」
って笑ってみせた。
その笑顔に……
智樹のの顔に笑顔が戻ったことに、俺はすっかり安心しきっていたんだ。
俺に笑顔を向けながら、心の中では声を上げて泣いてたのに……
苦しんでいたのに……
なのに俺は、智樹が何を思い、何を考えているかなんて、気付きもしなかったし、想像することすら出来なかった。
その時は気付かなかったんだ、
翔真さんとの会話を、智樹が聞いていたなんて……
その時は思いもしなかったんだ。
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