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荒野には、モンスターが多い。
それでも町と町を繋ぐ道路沿いなら、多少は人通りもあるせいか、そうそう危険なモンスターに出くわすことはねぇらしい。
逆に、街道から離れれば離れる程、モンスターの数も増えるし危険度もアップする。
一概には言えねーけど、手っ取り早く金を稼ぎたい連中には、お手軽な狩猟場だ。
オレとミーハなんてのはそのいい例で、わざわざモンスターに出くわしてぇ為に、街道を通らねーことが多い。
「自分の腕を過信し過ぎんなよ」
とか、ベテランの賞金稼ぎに忠告されることもあるけど、オレらの目的は腕試しだけじゃねぇ。
一番の目的は……金だった。
そんなオレらが数分前に出くわしたのは、荒野に出没するクマ系のモンスター、ワイルダーベア。
「ファイヤーボール! ファイヤーボール! ファイヤーボール!」
ミーハが叫ぶと同時に、右手の杖から『火球』が次々現れて、目の前のモンスターを襲った。
断末魔の声を上げて、ワイルダーベアが消し炭になる。
あ、勿体ねぇ。
……とか思ってる場合じゃねぇ。それと同じモンスターが、オレ目掛けて、ブンッと長い爪を振り回す。
「うわっ」
オレは攻撃をスレスレでかわし、モンスターの懐に入って思いっ切り剣を突き刺した。
グオォォン……。
耳元に響く唸り声。
2mを超える巨体にのしかかられて、剣を持つ手がぶるぶる震える。
絶命したのを確認してから、どりゃっと剣を引き抜いて脇に避けると、クマが地面に転がった。
「はぁ……」
肩から思いっきり息を吐いて、剣を振り、鞘に収める。
相手がこっちに向かって来る、その力を利用しながら深く刺す――モンスターが大きくて鈍重な時には、一番有効なやり方だ。傷も少ねーから、皮も高く売れる。
「アル君、怪我、ない?」
ミーハが片言で訊きながら、てててっと走って来た。
「おー、ねぇぞ」
ミーハの問いに簡単に答え、剣の代わりにナイフを取り出す。このワイルダーベアってモンスターは、毛皮も肉も安価だが、熊胆っつー薬の材料が採れて、それだけは高値で売れる。
ただし、消し炭にしちまうと何も採れねぇ。モンスターを高熱で処理すると、たまに宝石なんかが練成されるらしーけど、ホントに「たまに」だ。
だからミーハには、日頃から『火球』の魔法を使い過ぎるな、って言ってある。
その度にミーハも反省して、「次、気をつける」とか言うけど、やっぱ実際にモンスターを前にすると、ダメみてぇだ。
こいつは加減ってモノができねぇ。敵は殲滅すべし、って、体が覚えちまってるらしい。
一体、以前はどんな暮らしをしてたんだろーな? 知りてぇけど、それは本人にも分からねぇ。
ミーハは……記憶喪失だった。
オレらが出会ったのは、3ヶ月くらい前のことだ。
晴れてたのに、突然大雨が降った日だった。
大雨の日は、普通みんな川に近付かねぇ。増水してるし、鉄砲水とか怖ぇもんな。
けど、増水した川よりも、山上の方がもっと危険で……そんな山上に行かなきゃ採れねぇような、水晶や宝石の原石なんかが、大雨で流れて来ることもある。
そういう原石目当てで川に行き、原石の代わりに拾ったのが、ミーハだ。
川の真ん中を、半分沈んだような状態で人が流れて来んの見た時は、ホント慌てた。深いとか危険だとか、そんなことは頭から消えて、気が付けば川に入って救出してた。
勿論、原石拾いは中止だ。
数個のルビーだけをポケットに入れ、ソイツを背負って町まで帰った。
かなり上流から流れて来たのか、フードつきのローブはボロボロで、体はスリ傷だらけだったけど――よっぽど大事だったんかな、古い魔法の杖だけは右手にしっかりと握ってた。
正直に言うと、町まで運んで医者に診せて、それでお別れのつもりだった。だって、別に面倒見てやる義理はねぇし、助けただけで十分だろ?
けど、記憶を失くして、真っ青な顔でぶるぶる震えて泣いてるこいつを……なんでか放って置けなかった。
採った熊胆を油紙に包み、鞄に入れて立ち上がる。
毛皮をどうするか一瞬迷ったけど、そんなに毛並みもよくねーし、今回は無しでいい。馬がいりゃ、もっといっぱいの戦利品を持って帰れんだけど、残念ながら馬が買える程の稼ぎはねぇ。
「肉がもうちょっと美味けりゃなぁ」
ミーハにそう言って笑った時――いつの間にか、囲まれていた事に気が付いた。
「アル君……」
ミーハが、震えながらオレの服をギュっと握った。
ワイルダーベアの血の臭いに、寄って来たんかな?
集団で狩りをするネズミ、ワイルダーマウスだ。一匹一匹は小さくて弱ぇザコだけど、集団で来られると、ちょっとヤベェ。
「大丈夫、オレがついてっから」
震えるミーハの肩を抱き、唇に軽いキスをする。そうしたらミーハの肩から力が抜け、リラックスして魔法がうまく使えるようになんの知ってる。
思った通り、ミーハは震えながらも笑顔を見せた。
ビビりのくせに大胆なのが可愛い。柔らかな薄茶色の髪を、ちょっと乱暴に撫でてやる。
「いいか、逃げられりゃそれでいーかんな。さっきの要領で、ファイヤーボール3連発、頼むぞ」
オレの指示に、ミーハはこくんとうなずいた。
けど、ワイルダーマウスが距離を詰め、オレが「今だ!」と叫んだ瞬間――。
「ファイヤーサークル!」
ミーハが呪文を唱えた直後、ドウッと円状に炎が上がり、オレらの周りのモンスターが一撃で殲滅された。
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