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伝説の勇者よ。魔王であるこの俺を惚れさせるとはなんと罪深い。
*********
「ヴィンセント様は今日も出てこないのか」
「ええ。なんとかなりませんかねブラッドリー様。あなただけが頼りなんです」
と、言われてもな。今回ばかりはお手上げでいいだろうか。
近頃、俺の上司・ヴィンセント様が異様な様相を呈してきた。自室にこもったかと思えば、何かの映像を見続けているようなのだ。しかも頻繁に叫び声のようなものも聞こえる。これは本格的にやべえと思い、中に押し入ろうとするも断固拒否される始末。もっとも彼の奇行は今に始まったことではなく、
トップに君臨する彼があんな調子では、下々の者たちの士気にも悪影響を及ぼしかねない。他の幹部クラスの面々も匙を投げ、いちるの希望を俺に託すようになった。いくら俺とヴィンセント様の付き合いが他のやつらと比べて最長とはいえ、パーソナルな問題に限って俺に丸投げにするのはやめてほしい。過労によって体調を崩したなら有無を言わさずに労災申請してやる。
何より厄介なのが、彼の現状を正確に把握しているのが俺しかいないということだった。
今日こそケリをつけてやる。思い立った俺はヴィンセント様の部屋まで直行した。
開かずの間となってしまった上司の部屋の扉に耳を押し当ててみる。おや今日はやけに静かだな、と思ったのも束の間、ヴィンセント様の叫び声がいつものように漏れ出した。
あーもー我慢ならねぇ。
「ヴィンセント様! いい加減にしてください。あんた、自分の立場分かってんのか! 来る日も来る日も部屋に引きこもって……」
開口一番に日頃の鬱憤をお見舞いするつもりが、二の句が継げなくなってしまった。それくらい、室内の光景は想像を絶するものであったのだ。
「そんなに慌てて、どうしたんだ」
そう言って部屋の中央に立っていた上司が機敏に振り返る。だがその格好が明らかにおかしい。
無風の室内で謎の翻りを見せる赤いマント。
額でその存在を主張するサークレット。
腹立たしいほどに光属性に偏った剣。
久方ぶりに見た上司は勇者然とした立ち居振る舞いをしていたのだ。
とりあえず目を閉じた。ため息ひとつ。これは直視してはいけないやつだ。
俺の心境を知ってか知らずか、ヴィンセント様の茶番はなおも続く。
「その様子だと魔物が出たんだな? 心配はいらない。勇者・ヴィンセントここに参上した!!」
「お前魔王だろうが!!」
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