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第2章 Frustrating Feeling9
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智樹が目を覚ますまでの間、俺は公演と公演の合間の僅かな時間を、マンションと劇場の行き来の繰り返しに費やした。
病人を一人で部屋に残しておけるほど、俺は冷たい奴でもないから……
昔っからそうだ。
俺は捨て猫だとか捨て犬を見つけると放っておけなくなる性質で、拾って帰ってはクローゼットに隠して飼ったりもした。
でもそれも最初だけ。
飽きたら全く未練なんて感じることなく捨てた。
だから智樹のこともきっと……
そう思っていたのに、漸く眠りから覚めた智樹の目を見た瞬間、俺コイツ捨てらんねぇ……、そう思った。
智樹の目が、道端に捨てられていた犬や猫以上に深い悲しみを宿していたから……
「お前、名前は?」
「とも……き……、おお……たとも……き……」
初めて聞いた智樹の声は、ずっと眠っていたせいか酷く掠れていたけど、それでもその声一つで頭の芯が蕩けてしまいそうな、甘くて透き通るような声だと分かった。
「家は?」
特に所持品も無かったし、見たところ家出少年のようには見えるけど……
「それと歳は?」
「歳は十……七……」
特に急かすわけでもなく、繰り返される俺からの問いかけに、智樹は一つ一つ迷うことなく、それでもゆっくりとした口調で答えて行く。
「家は……ない……」
やっぱりか……
つか、この童顔だから、当然未成年だとは思ってたけど……そこまで若いとは、余程の訳あり、ってことか。
「行く当ては?」
家出少年であることは確実だから、当然無いだろうとは思いながらも、一応聞いてみる。
すると智は瞼をそっと閉じたかと思うと、その端から綺麗な雫を一粒零し、
「じゅ……いちのとこ……に行きたい……」
声を詰まらせながらそう答えた。
その顔が途轍もなく悲しく見えて、
「わ、分かった。ちゃんと連れてってやるから、兎に角今は身体治せ、な?」
俺はその言葉の意味も深く考えないまま、気付けば際限なく流れ続ける智樹の涙を、指の腹で拭っていた。
そんなこと、今まで誰にもしたこともなければ、しようとも思ったことだってないのに、ごく自然に……
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