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腐れ外道の縁
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授業が終わって、掃除当番のツッキーを待って、そして一緒に駅までの15分間の下校を楽しむ。
「で、今日は手紙もらってねーの?」
「さすがにもうみんな、断られるって学習してくれたからね。
喧嘩ふっかけてくるバカも減ったし、ようやく平和になったところかな」
このくだらない近況報告に対してふーっ、と大きな吐息を漏らすあたり、本当に心配してくれていたらしい。
「そりゃ何よりなこって。
お前が彼女作ったら俺は路頭に迷うことになるんだから、絶対に作るんじゃねーぞ」
「作らない作らない、作りたくもない」
「それはそれでなんかウゼーな」
……主に、僕ではなく彼自身の命運についての心配ではあったようだが。
「転校する前にユッキーの爪の垢でも貰っとけばよかったね」
「マジでそれ。
冗談抜きで金出してでも欲しい」
同じ陰キャ仲間だったユッキーは、いわゆる「陰キャ間では陽キャ」的なタイプの男だったので、転校先でもなんやかんやオタ友を見つけてうまくやっているらしい。
対してツッキーはこちらが心配になるレベルの人見知りで、自分からは初対面の人に話しかけることなど死んでもできないタイプだ。
僕が彼と仲良くなれたのも、ユッキーというサポーターがいたからこそだった。
かくいう僕もあまりリアルの人間と平和に馴れ合うことは得意じゃなかったから、ユッキーが僕をオタク気質の人間と見抜いて話しかけてくれなければ、今ごろは孤独なスクールライフを送る羽目になっていただろう。
「心配しなくても本当に作る気はないよ。
ってか『ボッチになっても知らねーぞ』なんて威勢よく言っていたツッキーさんはどちらへ?」
「あー聞こえなーい」
今はこうして、リアルでふざけあえる唯一の仲間になった。
両親すら頼りようが無い僕にとって、彼は僕の中では一番大切な人かもしれない。
その次がユッキー、そしてその次がアポカリファンの皆さま、といったところか。
今の調子では、そんな大切な人のほとんどと縁を切ることになるかもしれないけれど。
「なぁユート、マジな話、俺の前からいなくなったりとかするんじゃねーぞ」
「……え?」
そんなことを考えていたら、唐突に意味深長なことを言われてドキリとする。
さっきの「自分がボッチになりたくない」とぼやいていた彼の表情とは一転、その切れ長の目は冗談を一切含まずに僕だけを見つめていた。
「それって、どういう……」
「よー、また会ったなクソガキ!」
が、僕の声は後ろから急に聞こえてきた大声に遮られる。
「うわっ!?」
「っ! ……って、あれ、あなたは」
陰キャは自分らのテリトリーに誰かが入ってくることをとてつもなく嫌う。
というか、入ってくることに慣れていない。
そういうわけで僕もツッキーも予想外の第三者の声に仲良くビクリとなってしまったが……後ろを振り返ってみて、見覚えのある顔に若干張り詰めた肩が緩む。
「よぉ、昨日ぶりだな。
んー、明るいところで見るとマジで変な目してんだなお前。
その隣にいるのはダチか?」
後ろに立っていたのは、初対面に「クソガキ」と躊躇いなく言ってのける、昨日の冤罪おっさんであった。
今日も僕の後天性オッドアイ以上に奇抜な被り物をしているようだが、このおっさんの趣味なのだろうか。
「ええ……まぁ。
あれから厄介ごとには巻き込まれて無いですか?」
「はっ、毎日巻き込まれてたら溜まったもんじゃねーよ」
しかしこのおっさん、あまりにも距離感が近すぎる。
普通、冤罪に巻き込まれていたところを助けただけではここまで親しげに話しかけてはこないだろう。
「え、えーと……この人誰だ、知り合い?」
そして何も知らないツッキーは困惑した様子でこちらとおっさんを交互に眺めている。
「まぁ、そこまで親しい人ではないけれど一応は……でもほぼ赤の他人だね」
「それ、本人の前で言っていいやつなのか?」
「あー……まぁいいんじゃないかな、もう言っちゃったし」
「それは理由になってねぇだろ……!」
そしてそんな失礼なひそひそ話に対して、目の前のおっさんがなにか不機嫌そうな素振りを見せることはなかった。
代わりに僕たちをじろじろと眺めて、
「…………はーん。
なるほど、な。そういう……」
何かよく分からないことで勝手に納得して、勝手にうんうんと頷いている。
それはそれで何を考えているのか分からなさすぎて怖い。
ツッキーなんか、僕を盾にするかのように両肩を掴んで、後ろに隠れてしまった。
身長差のせいで、その引き気味の細目はおっさんから見え見えだろうけど。
かくいう僕の目つきにも、多分少なからず疑心が混じっているだろう。
ただ昨日助けただけの関係性の薄いおっさんがここまで砕けたノリで接してくるなんて、僕らに対して何か悪いことでも考えているのではないかとどうしても勘ぐりたくなってしまう。
「ま、お互い気をつけようぜ、クソガキ。
今度はお前がロクでもねぇ目に合うかもな、はははっ!」
が、それが何かを推測する暇もなく、おっさんは豪快に笑ってどこかへ歩き去って行ってしまった。
やはり11月には似合わないうちわを振りながら。
「……行ったか?」
「行ったね」
そしてようやくツッキーは、俺の肩から手を離した。
「…………なんだったんだ、あの人」
「さぁ……痴漢冤罪をふっかけてくるビジネスバカップルから助けた時は、あんな気持ち悪い人だとは思ってなかったんだけどね」
「そのビジネスバカップルとかいうヤバそうな話題をしれっと流すお前もそこそこ気持ち悪りぃわ」
一応、平和な通学路を取り戻すことはできたが、やはり得体の知れないモヤっとした気持ち悪さは拭えない。
今日は「お互い不審者には気をつけよう」という、普通の男子高校生にあるまじき台詞で友人と別れを告げることとなってしまった。
正直、あのおっさんは本当に助けるべきだったのか否かと聞かれても、今となってはハッキリと頷ける自信がない。
「交通費の支給と、あとは……あまりコミュニケーションがいらない仕事だと嬉しいかなぁ」
電車に揺られながら、高校生の採用枠があるアルバイトを探す。
うちの高校は原則バイト禁止だ。
だからバイトをするのであれば学校からある程度離れていて、客と会うことのない仕事がいい。
「今の残額は……まぁ、1日200円くらいにまで抑えたら二週間は保つか。
採用してもらえるまではこれでやっていかないと……」
ああ、でも。
そもそも家賃はどうなるのだろう。
もし親が自分の口座で引き落とすのを止めてしまっていたのならば、バイトをしたところで1人では生きていけない。
それに定期も有効期限が切れて仕舞えば交通費が自費に変わるし、学費も……などと考え始めれば絶望的だ。
あのバカな両親は、本気で僕のことを見殺しにするつもりなのだろう。
どうせ蒸発したところで、日本の警察や司法から逃げられやしないだろうに。
学校を辞めて、ただただ生きるためだけに金を稼ぐ生活を送るか、このままの生活をできる限り続けて野垂れ死ぬか……どちらにせよ、今の生活は捨てて、惨めになるしかないのかもしれない。
いや、それならいっそのこと自分が「加害者」になって仕舞えばいいのでは。
今の自分なら猟奇的な作品ばかりに触れているから、頭のおかしいアンチオタクな古びた頭の方々が「危ない作品のせいで犯罪に手を染めた」という評価を広めてくれるかもしれない。
そうなれば、世間から見た僕は被害者じゃなくなる。
その他の善良なオタクの皆様には余計な風評被害をもたらしてしまうかもだけれど、きっと皆様は強く生きてくれるはず。
「……だとして、何をするのがいいんだろう」
流石にこの話題は電車ではまずいから、家で考えた。
罪のない人を巻き込みたくはないから、僕が狙うべきは犯罪者がいいだろう。
特にストーカーとか強姦犯なら、きっと躊躇なく手を出せる。
夜の路地裏を探せば、1人くらいは見つけられそうだ。
そしたらとにかく、少年院送りになるレベルで痛めつければいい。
そしてもし捕まった後に取り調べの機会があるなら、「小説を作るだけでは満足できなかった」とか言って、両親との関係は黙っていればいい。
正直、一番ボコボコにしたいのは、僕の両親だ。
でも二人ともどこにいっているのかはよく分からないし、両親に手を出してしまえば確実に家庭環境を深掘りされてしまうし、何より父親に勝てる自信がない。
僕は親を恨みこそすれど、被害者ヅラで復讐した……なんて肩書きは欲しくないのだ。
……なんとも頭のおかしい話を考えていることは分かっている。
そりゃ、本当はそんなことをしたくはないし考えたくもない。
もし本当に大きな犯罪に手を染めて仕舞えば、仲良しだったツッキーに迷惑をかけてしまうことも分かっている。
でもそんなことを考えている間にも刻一刻と時間は流れるし、どんどん決断のタイムリミットは近づいている。
今後何を優先して何を捨てるか、あらかじめ決めておいた方がいいかもしれない。
「あ、もう6時か」
気づいたら、窓の外がうっすらと明るくなっていた。
夕飯も食べず、着替えもせずにずっと机に向かっていたらしい。
スマホの電源がとっくに切れていたから、とりあえず充電器に刺しておいた。
学校に行くときに忘れないようにしないと。
「……寝てたのか起きてたのか、もうそれすらよく分からないな」
この調子じゃ、またツッキーに腕を捻られるかもしれない。
そんなことを考えながら、カッターシャツと下着だけ替えを用意してシャワーを浴びる。
一人分のために洗濯機を毎日回すのも馬鹿げているから、洗濯物は風呂場で軽くお湯で洗って、数日に一回纏めて回すのが最近の日常だ。
髪の毛が乾いた頃に教科書をリュックに詰め、水筒に水を入れたら準備完了。
行ってきます、などという台詞は、夏休みには既に消滅していた。
〜・〜・〜
「…………」
「……?」
とりあえず、無事に学校に着くことはできた。
「…………」
「いや、えっと……何?」
教室にも何事もなく到着して席に座ると、奇妙なことが起こった。
ツッキーがやってきてこちらをジロジロと見つめ始めたのだ。
しかも無言で。
朝食に買ったチョコチップ入りのスティックパンの袋を取り出しても、中身を1本取って口に入れても、彼はずっと細めた目でこちらを見ている。
「……なぁ、ユート」
「だから何さ」
1本食べ終わったところでようやく彼は口を開く。
「朝、それだけか?」
「……まぁね」
一袋で1日分なのだ、朝が1本になるのは仕方がないだろう。
「少なくね?」
「否定はしないかな」
その声は、明らかに訝しげであった。
自分でも分かっている、こんな量じゃ基礎代謝すらギリギリ賄えるか分からない量であると。
そしてそれが毎日続いていれば、少なくとも彼くらい親密な存在には怪しまれる可能性があったということも、分かってはいた。
「ダイエット?」
「そんなところ」
だが、だからといってこの現状を変える術はないわけで。
ツッキーもそれっぽい理由を出してくれたから、とりあえずそれに頷いておく。
……いや、頷こうとした、といった方が正しいか。
「嘘つけ」
頷く前に、髪の毛をガシッと引っ掴まれたから。
「いでっ……」
「図書室来い、異論は認めん」
「わ、分かったわかった」
ここまで乱暴に「ちょっとツラ貸せ」みたいなことをしておきながら、結局行き場所が図書室なのがいかにも彼らしい。
手をパッと離された瞬間にぐらりと頭がふらつく感覚を覚えながら、僕は友人の背中を追った。
無言のまま図書室に入り、無言のままいつも通りの新書コーナーを目指す。
ユッキーが転校する前から3人で使っていた定位置の椅子に僕が座るのを確認すると、ツッキーは立ったままこちらをじっと見下ろした。
「…………」
なんと言えばいいのか分からず、口を開けることができない。
これではまるで尋問されているかのようだ。
「ユート」
「……」
目だけは合わせてみたが、それはそれで気まずい。
特に彼の目は切れ長だから、心なしか睨まれているような気分になる。
「最近お前、なんでそんなに食わねぇんだよ。
昨日なんか、朝からふらふらだったじゃねーか」
「……何もないって。
ただのダイエットだよ」
「身長欲しいって愚痴ってたクセにか?」
「う……」
ぽす、と頭に手を乗せられてしまってはぐうの音も出ない。
「しかも元々痩せてるだろ、お前は。
一体これ以上どう痩せるつもりだ、骨にでもなるつもりか?」
両親が絶賛不倫中で、唯一食費をくれていた母親も自分を捨てる準備をしている、などとは言えるはずもない。
だが、まぁ……彼にだけは、少々哀れまれてもいいか。
もう彼と不変の関係を築けないことはほぼ確実になっているし、その程度で関係が変わるような男ではないという期待を込めて口を開く。
「……今、両親との仲が最悪でさ。
食費もらえてないんだよ」
嘘は言っていない。
だからそこまで声はぎこちなくはなかったはず。
ツッキーは細めた目をさらにグッと細めて、
「……ま、そういうことにしておいてやるよ」
と少し不満げな声でそう言った。
多分彼には、僕がまだ隠し事をしていることはお見通しなのだろう。
「ともかく、だ。
お前、昼もそのパン1、2本で済ますつもりか?」
「そうなるだろうね、それ以上高いものは買う余裕ないし」
「いーや、それは俺が許さん。
もしお前がぶっ倒れて俺が教室でボッチになったら死活問題だろうが」
……なるほど、彼が真剣になっていた原因はそこか。
なんというかまぁ、陰キャのツッキーらしい心配の仕方なことで。
だが、そもそも僕が少食になっていると気づいたのは、彼が僕に気配りをしてくれていたからだ。
やっぱり腐れ外道の僕なんかより、彼の方がモテて然るべきだと思う。
「特に体育の授業とか想像してみろよ、2人1組で体操しろとか言われたら死ぬしかねーじゃん」
「あー、それはそうだね」
「そうだね、じゃねーよ。
だからお前にはちゃんと飯食って健康でいてもらわねーと困る」
すると彼は徐にぽん、と巾着をこちらに投げてきた。
一体どこから出したのだろう。
「残念なことに、俺が握ったおにぎりが入った巾着だ。
食費がもらえるまでの間は、昼飯にそれを食ってもらうぞ」
巾着の感触はごろごろしていてずっしりと重い。
本当に何個かのおにぎりがしっかりと入っているようだった。
「……いいの?」
「いいも何も、とりあえず食え。
残念だったな、可愛い女の子のお弁当じゃなくて」
あまり異性愛のラブコメには詳しくないが、彼女が彼氏のために弁当を作ってくるという展開はどこかでみたことがある。
だからといって、まさかコイツが僕に何か変な感情を持っていることはないだろうが。
「ありがとう、大事にいただかせてもらうよ」
「おー、言質はとったからな」
素直に嬉しかったのでお礼を言うと、ようやく彼は満足そうに笑った。
・
・
・
4時間目の授業が終わり、昼休みになる。
すぐさまツッキーが自分の昼食を片手にこちらの席にやってきた。
「さぁ、それを食え」
「分かってるって、急かさないでよ」
そっと巾着を開けてみると、ラップに包まれたカラフルなおにぎりが3つも入っていた。
鮭と胡麻、わかめとシラス、キノコ釜飯のおにぎりらしい。
「すご……え、これツッキーが作ったの?」
「まーな。
あ、釜飯はアレだぞ、俺のおかんが炊いたやつだ」
「豪華すぎない?」
「やっすい男だなお前。
んなもん200円ありゃ作れるわ」
こっちが驚いているのを、彼は呆れたように眺めていた。
彼にとって、200円というのはとても安いお金なのだろう。
それでも他人のために昼ごはんを作るというのはかなりの労力であることに変わりはない。
しかも彩りも栄養も考えて作られているのだからすごすぎる。
恋人ならともかく、いち友人にここまでしてくれる存在など、二次元世界ですら滅多にお目にかかれないだろう。
「いただきます」
とにかく見ているだけでお腹が空いてきたから、早速鮭のおにぎりを口に入れてみる。
「……すっごく美味しい、なんだこれ」
コンビニ以外の食べ物を口にしたのは一体いつぶりだろうか。
こんなに手作りのものは美味かったのかと驚かずにはいられない。
「そりゃどーも。
お前散々女子フッてきたけどよ、弁当作ってもらったら案外すぐオチんじゃね?」
「いや、それはない。
いらないって断るから」
「うわ辛辣」
ツッキーも僕がおにぎりを食べ始めたのを見届けると、目つきを緩めて自分の弁当を食べ始めた。
確かに彼の弁当にもキノコの釜飯が入っている。
「……ってか、金の問題だったのはマジらしいな。
食費止める親とかいんのかよって疑ってたけど、この程度で豪華って言われたら信じるしかないわな」
「昼食作ってきてくれるって時点で十分豪華だよ。
基本うちはコンビニのものしか食べないからさ」
「そうか……メシ抜きじゃなくて食費出さない、だもんな。
そもそも作らねーってことか」
きっと彼の家では、親がご飯を作ってくれているのだろう。
ごく普通の平和な家族というのは、僕のような家庭を知らないで生きているものなのだ。
「何ならうちにメシ食いに来てもいいからな。
二つ返事でお前の昼飯作りを許してくれるような親だから、遠慮はいらねーぞ」
「いや、流石にそれは申し訳なさすぎるかな……気持ちだけ受け取っとくよ」
昼ご飯を作ってもらって、さらに夕飯までたかるとなると、あまりにも厚かましすぎるだろう。
まさか彼も食費ストップが一時的なものではなくほぼ永久的なものであるとは気づいていないだろうし、確実に迷惑をかけてしまう。
「ま、その気になったらいつでも言えよ。
あとそのおにぎりは必ず全部食ってもらうからな」
「はいはい、分かってるって。
あ、ワカメのやつも美味しい」
本当に彼のような友人を持てたのは、僕の人生の中でも数少ない幸運の一つだろう。
彼には、そして彼と僕をくっつけてくれたユッキーには、感謝してもしきれない。
〜・〜・〜
お腹も心も満たされた状態で午後の授業を受けたのは、本当に久しぶりのことだった。
悪いことといったら、満腹で少し眠気が出てきてしまったくらいか。
お腹が空いていたら空いていたで頭に糖が来なくて頭痛を引き起こしていたから、眠気など取るに足らないものだったが。
「じゃ、またな」
「うん、また明日。
……あれ、ユッキーからだ」
帰り道の雑談を楽しみ、駅で別れたところでスマホがメッセージを受信した。
僕、ツッキー、ユッキーの3人で作ったグループに通知が一個点いている。
テスト勉強でスマホを封印すると言っていたが、ようやく解禁できるようになったらしい。
あと十数秒早ければ、ツッキーと一緒に見ることができたのだけが悔やまれる。
ーユート、遅くなったけど誕生日おめ(*・ω・)ノ
遅くなっちゃって申し訳ね〜(>人<;)ー
……覚えていてくれていたんだ。
誕生日を祝ってくれたのは、ししのほらの店員さんと、あとツッキーの2人だけだった。
そもそもユッキーは転校してしまっていたから教えること自体忘れていたと思っていたけれど、ちゃんと知ってくれていたようだ。
ーいいよいいよ、テストだったしね。
お祝いくれただけですごく嬉しいよー
嬉しさと同時に、昨日の自分が考えてしまったことへの後悔が込み上げてくる。
遠くに居ても誕生日を覚えていて祝ってくれるユッキー、体調を心配して昼食を作ってくれるツッキー……彼らは本当に、僕が惨めになっただけで関係を変えてしまうような薄情な人だろうか。
僕が犯罪者になった時に彼らが被ることになるであろう迷惑は、被害者になりたくないという高慢なプライドのためであれば仕方がないものと言えるだろうか。
答えはもちろん、ノーに決まっている。
「整理がついたら、本当のことを話そうかな」
とりあえず、バイト先やら何やらは一応探して準備もしておこう。
児童相談所ってやつももう少し調べてみよう。
趣味は捨てることになるかもしれないから、ちゃんと休載のお知らせもB-Lackに書いておかないと。
今の僕はなによりも、この縁を大切にしたいから。
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