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二人なら、きっとどこまでも行けると信じていた。
谷ヶ崎紅貴は、夢を見る。
毎晩、同じ夢だ。
舞台は、十畳くらいの部屋である。大理石の床にワインレッドの絨毯が広がっている。天井からは小ぶりなシャンデリアが下がっている。レトロな机、ガラス製の本棚、取っ手に見事な装飾が施された箪笥。…どれも趣向が凝っている一品ばかりだ。
奥の天蓋ベッドに、11歳の少年…夢を見ている谷ヶ崎紅貴は横たわっていた。ここは紅貴の自室だ。谷ヶ崎家は代々続く金持ちの家系で、小学校高学年でここまで大きな自分の部屋があるのは、自分くらいだろうと紅貴は自負していた。
紅貴の寝ている天蓋ベッドのちょうど真横の壁には大きめのテラスに続く窓があり、しっかりとカーテンが締まっているものの、隙間からガラス越しに滲む月光が紅貴の横顔を照らし出していた。
西洋系の血が入っているのだろうか。人形の如き、顔立ちである。人一倍白い肌。艶やかな鴉の濡れ羽色をした短い髪。すぅすぅと規則正しい寝息を繰り返す薄桃色の唇。かたく閉じられた瞼の下には、円らな亜麻色がかった瞳が隠されている。ほっそりとした小柄な体を白いバスローブが暖かく包み込んでいた。
だが、身体にかかっている布団は、少年が何度も寝返りをしたためか。腰までずり下がっていた。その内、紅貴の様子にも異変が現れる。眉をハの字にして、落ち着かないかの如く幾度も寝返りを打つ。…やがて、少年は肌寒そうに胎児の如く背を丸め、自分を抱くようにそれぞれの手で反対側の二の腕部分を掴んだ。よほど寒いのか。小さく震えだす。
時期は十月下旬。周囲が寝静まり返る深夜。幼い頃から寝相の悪い紅貴に、救いの手など現れるはずがない。夢を見ている紅貴はそのまま、自分が目覚めるものと考える。
…だが、夢はまだ続く。
突如、窓の横の壁際からぬっと影が現れる。人型の影である。影の形から、その人物が燕尾服をパリッと着こなしているのが辛うじてわかる。
人影はベッドの上の紅貴に手を伸ばすと、丁寧な動作で彼の布団を肩の高さまでかけなおす。
人影は一端身を引くと、今度は上半身を低めて紅貴の顔を覗き込むようにする。…表情を確認したかと思えば、人影は小さく呟く。
『 、 。』
人影は静かな、それでいて足早に部屋の扉へと駆け寄ると一端廊下の薄闇に出る。両開きの木製の扉を閉めながら、人影は口を動かした。
『 、 。』
他愛もない夢のはずが、紅貴は何故か毎朝目覚め、思うのだ。…悪夢を見た、と。
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