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「…深夜に私が紅貴様の寝室に潜り込んでいる、ですって??」
窓のカーテンを全開にしてから、こちらを振り向いて目を丸くした執事…源漆の反応を見て、彼が仕える少年は罰が悪くなって首を竦めた。…十月下旬の暖かな日差しが窓を通して部屋に入ってくる。
「…何だ。やっぱり“うる”じゃないのか。」
ベッド上で胡坐をかきながら、紅貴はむぅと口を一文字に結んだ。…ちなみに、紅貴の言う“うる”とは16歳ながら彼に使える漆への愛称である。いつの間にか、この名前が定着していた。子供っぽくて恥ずかしいから幾度か執事に変更を要請してみたものの、断固として拒まれている。
「私でしたら、主人の部屋に許可なく立ち入るなんて真似は決して致しませんよ。…紅貴様が眠っている朝方は例外ですが。」
漆…燕尾服に身を包んだ高校二年生の青年は、機敏な動作でベッドの傍に近寄ってくる。早足だが音がしない。ついでに言うと気配もしない。まあ、屋敷の中にいる執事…谷ヶ崎家の父子家庭…一人ずつにそれぞれついているので、他一人の執事も同様に気配がないのだが。父親についている執事と比べても、漆は若いながらも素晴らしい働きぶりを見せていた。
六つ年上なだけとは思えないほど長身で、華奢な体をしている。手足がスラリと長い。肩までの黒髪を後頭部で一括りにしている。瑞々しい肌。怜悧な瞳に、薄い唇。溌剌とした表情。落ち着いた物腰は、16歳で身につくものとは到底思えない。職業上のものだろうか。
漆は主人が腰かけているベッドの傍に近寄ると、跪いて相手を見上げた。鋭くも和やかな瞳は、憂いの色を帯びている。
「…それよりも、夢の内容が気がかりです。…何かご不安になられるようなものを見ましたか??」
漆が小首を傾げ、心配そうな面持ちで訊いてくる。主人は夢かもしれないと前置きして侵入者がいたかもしれない、と話したものだから、案じるのも無理はないだろう。紅貴はどこかむず痒い心地を抱きながらも、答える。
「…べっ、別に。気になっただけだし。」
口を閉ざしてから深く俯く。…時折、紅貴は年上の執事にどう接してよいかわからなくなる。
紅貴は、谷ヶ崎家十八代目次期当主である。母親は幼い頃に重い病を患い亡くなったが、十七代目の父親は現役でバリバリに働いている。
源家は初代の執事からずっと谷ヶ崎家に仕えている。谷ヶ崎が金持ちの家系なら、源家は使用人の血筋なのだ。
源の末裔だから、漆は自分より年下の主人に頭を垂れて忠誠を誓っている。紅貴は、わかっているつもりだ。
だけれど、紅貴にとって彼の執事はただの使用人以上の存在だった。幼い頃、六歳で母親を亡くした紅貴に寄り添ってくれたのは仕事に忙しい父親ではなく、六つ年上の執事だった。
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