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そんな折、紅貴の誕生日である八月十六日が訪れた。
ダイニングは漆の時より更に豪華に飾りつけをされ、老若男女問わずたくさんの客人が招かれた。
パーティー開始から招待客の相手をさせられ、くったくたになった紅貴に声をかけてきたのは彼の執事だった。
「…紅貴様、こちらへ。」
案内されたのは厨房だ。銀を基調に、数々の料理皿が乗った大きめのテーブルや業務用の冷蔵庫なんかがずらりと並んでいる。
漆が業務用冷蔵庫から取り出したのは、平皿に銀色のクロッシュがかぶせられたものだ。一端平皿をテーブルに乗せてから、漆は器用な指先でクロッシュを取り払った。
…平皿の中身は、小ぢんまりとしているが背の高い、本格的な苺のショートケーキだった。ケーキの端で円を描くように、ホイップの一つ一つが小さく蜷局を巻いている。ホイップの円の内側には、ぎっしりと大粒の苺が詰め込まれていた。…明るい照明の下、尖った先端を上にして照り輝く苺は、まるでルビーのように美しい。スポンジケーキの側面や表面にムラなく几帳面に塗り込まれたクリームは、まるで雪原の如く絶景だ。
「…私からのプレゼントでございます。」
ゆっくりと一礼する漆に対して、小さな主はぐしゃっと下手くそな笑顔を見せた。それだけでは感謝が伝えきれないと思い、勢い余って執事に抱き着いた。
「ありがとう、漆。こんなに嬉しいことはないよ。」
執事は小さな主の背に両腕を回し、そっと瞼を落とした。
「…身に余る光栄でございます。」
ややして、漆の方から主人の身体から離れていく。漆は名残惜しくも、彼に合わせて身を引いた。
感動を分かち合っていた、矢先だった。厨房の扉を壊すつもりか、という勢いでメイドの衣笠がやって来る。
「…坊ちゃま、漆君!!旦那様が部屋でお待ちです!!」
二人は衣笠の言葉を聞いて、驚きの表情を見合わせた。
谷ヶ崎燈が自室に人を迎え入れるのは珍しい。…外部の客人は指で数える程度しか入れないし、家族といえど迂闊に立ち入ってはならない場所だと幼少の頃から紅貴も言い聞かされてきた。
燈が家族の者を呼ぶ時、それは…子供の成績や進路について話がある時…つまりは、紅貴の人生において重要な点のみに呼び出されてきた。
しかし、今日は勝手が違う。紅貴、12歳の誕生日なのだ。主従は、そこまで深刻に考えずにいた。…きっと、燈も息子におめでとうと伝えたくて呼んだのだと。
だから、紅貴は自分の執事が作ったショートケーキ一切れを小皿の上に盛り付けてプラスチックのフォークを付け、二階の当主の部屋前まで持ってきた。幼い紅貴にとって、父親に贈るショートケーキこそが今まで育ててくれてありがとうという感謝の意でもあった。
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