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「ま…まあ??オレにしちゃ、こんなん朝飯前だし。」
「そうでしたね。」
ニコニコと微笑む執事の横顔に主人は目を奪われる。…そういえば、と視線に気づかない執事は続ける。
「遠瀬院様、お綺麗な方でしたね。紅貴様はどう思われました??」
「え??ええ~っと。まあ、かわいかったな。」
違う、と紅貴は静かに目を伏せる。…漆としたいのは、こんなどこの女の子がかわいかったとかタイプじゃないとかの話ではなくて。
「…紅貴様にしては、歯切れの悪い答え方ですね。遠瀬院様に、何かございましたか??」
「い、いや。別に、そういうんじゃないけど…。」
途端に居心地が悪くなって、次期当主は辺りを見回しだす。胸の奥がきゅっと痛む感覚がした。妙に息苦しい。…感じたことのない、身体の異変。
「ああ。ほら、今回は顔合わせでしたし。紅貴様も何度か食事を御一緒すれば、遠瀬院様に惹かれていくに違いありませ…っ。」
執事が喋っていた、最中だった。二人の乗った車の前に灰色の道路には不似合いなボールがコロコロと転がってくる。不安に感じた、次の瞬間だった。小さな男の子が道路に飛び出してきた。
「うわッ!!」
「危ないッ!!」
漆が咄嗟にハンドルを切る。車が回転し、後部席に乗っていた紅貴にも振動が襲いかかってきた。生命への危機を感じた紅貴は、反射的にぎゅっと目を閉じる。ややあって、一際大きな衝撃が全身にきた。
目を開ける。…最初に見えたのは、車窓の外の風景だ。何が起きたかわからないのだろう。大きな音に怯えたのか。道路の中央で屈んで泣き出す、さきほど飛び出してきた男の子だ。男の子に駆け寄る影がある。三十代くらいの女性だ。女性が男の子の背を繰り返し撫でながら、叱咤している。…二人は親子なのだろうか。
頭を座席の角で強か打った。医師の診療が必要だ、と思うほどではなかったが。どうにも頭がぼんやりしていけない。さっきまでの記憶が忘却の彼方にすっ飛んでしまった気がする。…ええっと。今、自分がしなくてはならない最優先事項がさっさと出てこない。
茫然としていると、前方から声がかかる。
「…紅貴。」
懐かしい声。誰だっけ。そうだ。漆だ。…声の主が誰かわかったと同時に、唐突に紅貴はやらなくてはならない事柄を思い出した。子供は無事だった。では、漆は!?
紅貴がさっと運転席に目をやる。…すると、そこには座席に腰かけつつもどこかぐったりした漆の姿があった。主人は声を張り上げた。
「うる…っ!!漆!!おい、漆っ!!」
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