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「…紅貴、様…??」
漆の目がそっと開く。紅貴の全身からちょっとだけ力が抜けた。目を開けた。漆は、ちゃんと生きている。だけれど、どこか様子がおかしかった。漆の肩に手を伸ばしかけた主人は、運転席に血飛沫がついているのを目にする。少量だが、べったりと座席にこびりついている。
紅貴はぎこちない動きで、執事をよく観察した。後部席からでは顔の右側、一部しか見えない。動かしたらいけないかもしれないと思い、顔を動かすとひしゃげたバックミラーが目に映る。バックミラーの半分は綺麗に割れていた。辛うじて残っていた残り半分の鏡が、執事の左半分の顔を鮮明に映し出していた。
執事は…頭から血を流していた。どくどくと流れ出る血の赤が、主人の口から言葉という言葉を奪い去っていく。
「うるし…っ!!」
目をいっぱいに見開いて、紅貴は執事の名を呼ぶ。頭が真っ白になる。どうしていいのかわからない。どうしよう、どうしよう。身体の震えが止まらなくなる。呼吸がすっかり荒くなる。…だって、このままじゃ、このままじゃ漆が死んじゃうかもしれない。
怯える紅貴を現実に戻したのは、より大きく聞こえてきた子供の泣き声だった。紅貴はひっきりなしに震える手でポケットから携帯を取り出し、救急車を呼んだ…。
「谷ヶ崎さん??」
屈みこんだ状態の看護師に顔を覗き込まれ、紅貴はハッと我に返る。…事故に遭遇した前後の記憶が、ショックのせいかあやふやになっている。ともかく、紅貴は救急車を呼んで、執事を病院に搬送してもらい、自身も同じく医師に診てもらうためにやって来た。
ロビーでぼうっと席に座っていた紅貴を四十代くらいのナースは呼びに来たらしかった。紅貴が今までの話を夢うつつで聞いていたらしいと知ると、胸にバインダーを抱いた看護師は少しだけ悲しげに眉を寄せてから、いいですか、と繰り返してくれる。
「谷ヶ崎さん、外傷はありませんが頭を強く打ったという話でしたし、念のためこれから検査を受けて頂きます。検査結果が出るまで時間がかかりますので、今日は一日、病院に宿泊していただきます。」
「…しは??」
「え??」
紅貴は不安でいっぱいになる自身の服の胸部を掴んでから、意を決して看護師に訊く。
「…源漆は、どうなりましたか??」
「ああ、源さんですか。」
看護師は大きく頷いてから、答えだす。
「源さんは、命に別状はありませんよ。頭部に軽い怪我と右腕を骨折していました。」
看護師に聞いても、紅貴の気は休まらない。一時でも早く、会って安心したかった。
「…漆とは、どこに行けば会えますか??」
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