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吐き捨てて、廊下へと出ていく。廊下へ出ても、漆の不安定な息遣いが鼓膜にこびりついて離れようとしない。むしゃくしゃして、紅貴は唐突に廊下の壁を思いっきり蹴り飛ばした…。
谷ヶ崎紅貴は、夢を見る。
毎晩、同じ夢だ。
場所は、十畳くらいある自室である。大理石の床。ワインレッドの絨毯。天井から下がる小ぶりなシャンデリア。机に本棚、箪笥。…どれも部屋の主が気に入った作品ばかりだ。
奥の天蓋ベッドに、16歳の青年…紅貴本人が眠っていた。
紅貴の寝ている天蓋ベッドの左手の壁には大きめのテラスに続く窓があり、カーテンが締まっているものの、布地の隙間から漏れた月光が紅貴の顔を眩く照らしていた。
窓の外からは、虫の声や時折薄くだが救急車のサイレンなんかが聞こえてくる。八月第一週の熱帯夜。紅貴の自室に設けられた空調は、効きすぎるほど機能していた。
…何度朝訪れる専属の執事に忠告されても、若い主人の寝癖の悪さは治らなかった。布団がズレて、寒いらしい紅貴は寝返りの回数を増やすが、体温低下の問題は依然未解決のままだ。仕舞には、自身を抱くように腕を摩りだした。
唐突に、窓横の壁際からすっと腕が出される。腕の持ち主は、燕尾服をパリッと着こなしているように見える。
人影はベッドの上の紅貴に手を伸ばすと、機敏な動作で彼の布団を肩の高さまでかけなおす。
人影は一端後退ると、今度はやや前のめりになって紅貴の顔を確認し…影は小さく呟きだす。
『 、 。』
人影はさっさと部屋を後にする。両開きの木製の扉を閉めながら、人影は最後に口を開く。
『 、 。』
次に紅貴が夢について考えるのは、朝意識が浮上した時である。誰かが自分の部屋を訪れ、布団をかけなおしてくれた。日常的な内容のはずなのに、紅貴はその夢に怯えた。
…悪夢だ、と。
翌朝。紅貴が目覚めると、執事はすでに彼の部屋にいて、カーテンを開いている最中だった。
紅貴が目覚めたのに気配で気づいたのか、肩越しに振り返るとにこっと微笑んでくる。
「…おはようございます、紅貴様。」
「…おう。」
漆はきびきびとした足取りで天蓋ベッドの足元に来ると、笑みを刻んだ唇を開く。
「…早速ですが、本日のスケジュールを確認させていただきます。本日は、午前十一時からレストラン××で遠瀬院紗千香様と会食の予定が入っております。…他にご予定はございませんから、紗千香様さえよろしければ時間の許す限り二人でお寛ぎになって頂いてもかまいませんよ。」
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