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顔を上げた執事を、紅貴は舐めるように…黒光りする革靴、パリッと着こなしている燕尾服、表情、乱れのない頭髪まで観察し、小さく一言。
「…オレの前に来い、源。昨日、体調が悪かったのが気がかりだ。」
漆は一瞬目を丸くし…、そっと視線を主人からそらす。紅貴は肩を下ろし、おいおいと後頭部を掻き毟る。
「…執事が主を困らせてどうする。」
…言われた通りだと思ったらしく、執事は重い足取りながらも主人の前にやって来る。刹那、香る清潔感ある澄み切った匂い。紅貴は天蓋ベッドの端に両脚を下ろして腰かけ、数十センチ先に立つ執事に手を伸ばした。
刹那。次期当主の部屋を、静寂だけが支配していた。
執事の片頬に、主人の手のひらが触れる。かたかたと小刻みに震えだす漆の両肩を眺め、主人は歯ぎしりしたい衝動に襲われた。…やはり、漆はどこか性悪の主人に怯えているところがあるらしい。
紅貴が手のひらで味わう執事の肌は潤いに満ちている。幾度も撫でて、やんわりと揉んで、手触りを確かめる。…まるで白桃に触れているかのようだ。外側に張りがあるものの、薄皮一枚隔てた中は柔らかく、少し力を入れただけで壊れてしまいそうな。
「あ…、あの、紅貴様??」
漆が、うっすらと瞳を押し開ける。瞳は戸惑いの色を帯びていた。ああ、と小さく答えて、紅貴は腕を引っ込める。どきどきする鼓動を無視して、執事と話を再開する。
「…やはり顔色が悪いんじゃないか。遠瀬院家との会食の同席は、牧原辺りにでも任せて…。」
「できません!!」
漆は、間髪入れず強い口調で応じる。面食らったのは、主人の方だ。
「…だが、お前は昨夜倒れているんだぞ??聞けばしょっちゅう悪いらしいし、休養をとって病院に行った方が…。」
「私は這ってでも会食に同席させていただきます。」
声高らかに宣言する漆を、主人は勘ぐる。
「…お前、どうしてそこまでして会食に同席したがるんだ。」
訝しげな視線を向ける紅貴に、執事は姿勢を正してはきはき答える。
「…お答えいたしましょうか??あなたのお相手をする遠瀬院家のお嬢様が心配でたまらないので。」
てっきり遠瀬院家の令嬢に懸想しているのではないか、と思い込みつつあった主人は、執事の馬鹿正直な答えに対し即座に半眼になる。
「…そうかよ。」
考えかけた自分が馬鹿だった、と紅貴は前髪をかき上げた。
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