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「…紅貴様と紗千香様の次回のデートが済みましたら、見届けた足で病院に直行しますから。」
「…約束だからな。」
恨みがましげに主人が言うと、漆は深々と頷いてみせた。
「…はい。男と男の約束です。」
「ったく…。」
呟きながら、紅貴は運転席の扉を突き飛ばすようにして閉じる。閉じた後で、再度車の後方に回りながら、主は小声で指摘する。
「…そこまで、オレとあの女をくっつけたいのかよ。くそったれ。」
でも、と紅貴は静かに首を捻る。…紗千香と幸せになることで執事が喜ぶのなら、自分の気持ちを曲げてでも動くべきなのかもしれない。
主人はぼんやりとだが、執事の体調不良はストレスが原因ではないか、と勘繰っていた。執事を困らせている人間など、紅貴自身以外にいない。だから紅貴は、自分に出来る範囲なら何だってかまわない。執事を元気にさせてやりたかった。
「…フリでもいいから、しばらくは大人しくしとくか。」
一声唸って、車の扉のノブに触れた瞬間だった。何の前触れもなく紅貴は閃く。我ながら悪くない思いつきだ、と考え、勢いで車内に潜り込む。席に腰を下ろし、まだ少しばかり顔色の悪い執事に告げる。
「…源、命令だ。明日はオレと外出しろ。」
バックミラー越しに、純真な瞳が後部席へと緩々と向けられた。
「…外出、ですか??どういった御用件で…??」
「馬鹿だな。」
下見だよ、下見と後部席で主人は胸を張ってふんぞり返る。
「御令嬢を連れて行くんだぞ。デートの下見に決まっているだろ。」
紅貴の瞳は無意識に輝いていた。…デートの下見とかこつけて、実際のところは漆と二人っきりで久しぶりに遊びたかった。屋敷を離れて、二人だけになれば漆も少しは心を開いて悩み事を吐露するかもしれない。紅貴はそんな淡い期待を寄せていた。
肝心の執事はといえば、下唇に人差し指の先を押し当て、頻りに首を傾げてピンときていない様子だった。
「う~ん…。僭越ながら、紅貴様。私は女性経験が乏しいので、下見に連れて行くのでしたら、そこら辺が熟達していそうな牧原さんとかどうでしょう??」
そうか、と主人は我に返る。…そもそもの目的に気づいたのだ。
「明日、オレのおつきに牧原を指名すれば、源も休みになって病院に行けるよな…!!」
「謹んでデートの下見に御同行させていただきます。」
微笑みが引き攣る漆だった。…よほど、病院には行きたくないと見える。
漆は体調が安定したのか。車がゆるりと動き出す。からりと晴れ、入道雲が浮かぶ青空。ギラギラと輝く太陽に熱された駐車場のアスファルトは、数メートル先にゆらゆら揺れる陽炎を作り出していた…。
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