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谷ヶ崎紅貴は、夢を見る。
毎晩、同じ夢だ。
見間違えようもない自分の部屋。大理石の床には、ワインレッドの絨毯が広げられている。天井から下がっているのは、小ぶりなシャンデリアだ。古風な机、ガラス製の本棚、取っ手の装飾が見事な箪笥。…紅貴が蒐集した物達。
奥の天蓋ベッドに、16歳の青年…谷ヶ崎紅貴は横たわっていた。
紅貴の寝ている天蓋ベッドの付近の壁にはテラスに続く大きめの窓があり、カーテンが閉め切られているものの、隙間から零れ落ちた月光が紅貴の横顔を煌々と照らす。
空調が効きすぎた部屋は肌寒い。低い温度だというのに、青年の寝癖の悪さからか。紅貴の身体にかかっている布団は腰まですっかりズレ落ちていた。紅貴は何度か寝返りを繰り返すと、観念したかの如く身を縮め、自分自身を抱くように腕を回す。
何の前触れもなく、窓の横の壁際からふっと片腕が伸ばされる。人影はその形から、誰か燕尾服を着た者であるとわかる。
人影はベッドの上の紅貴に手を伸ばすと、ごく自然な動作で彼の布団を肩の高さまでかけなおす。
人影はちょっぴり後退してから、青年の顔色を伺い、人影は小さく呟く。
『 、 。』
人影はそのまま部屋を出ていくと、部屋の両開きの扉を閉めながら、喋る。
『 、 。』
次に目覚めた時、紅貴は直感する。…ああ、悪夢を見た、と。
鼻歌が止まらない。
長い絨毯が敷かれた、一直線の廊下。等間隔に大きめの窓が設置されている。普段なら、どうしてこの屋敷は廊下ですら、こんなにうんざりするほど長いのだ、と考えるのに今はちっとも気にならない。跳ねるような軽やかな足取りで、紅貴は長い長い廊下を歩いていく。
偶然すれ違った衣笠に、紅貴は声をかけられた。
「…あら、坊ちゃま。何かいいことでもありましたか??」
紅貴はくるりと振り向いて、ああ、と殊更明るい声を出す。
「衣笠か。…実はな、紗千香様とデートをすることになったんだ。」
メイドは口元に手を運んで、目を丸くしつつも、まあ素敵と声を上げる。
「そうだろう、そうだろう。…えへへっ。」
照れた笑みを浮かべつつ、紅貴はそのまま廊下の奥へと進んでいく。紅貴の後ろ姿を見送っていた衣笠は思わず、といった様子で目元を和ませた。
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