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「御婚約、どうなることかと思っていたけれど、余計な気遣いだったようね。」
坊ちゃまのあの様子ったらまるで、と衣笠はふっと口にする。
「小さい頃、漆君と一緒にお出かけする前そっくりだもの。」
うきうきしていた紅貴だったが、いつも通り燕尾服の執事が運転席に陣取る車に乗った直後、口を噤む羽目になる。
「…いいですか、あなたは自覚ってものが足りないんです。」
何故か苛々している漆に、長々と説教を食らってしまったからである。
「今日、車に乗り込んだあなたの顔、手鏡があったら見せてさしあげたかったですよ。何ですか。声は弾み、口調は至って砕けており、おまけに頬にはしまりがありません。あなたがデートをエスコートするお相手は、あの遠瀬院家の御令嬢です。気心知れた男友達とゲームセンターにでも繰り出そうかってテンションじゃないんですよ。」
そこまで言われては、と紅貴は不服そうに頬を膨らませる。
「…いいじゃないか、別に。お前とは久々の外出だろう。少しくらい…その、浮かれても。」
ダメです、と執事は間髪入れずツッコミをいれる。
「デートの下見といっても、大事な下準備ではないのですか??そんなピクニック気分で来られては困ります。…僕は、牧原さんと違って女性経験が浅いんです。今日、僕達は二人でない知恵絞ってうんうん唸りながらデートプランを考えるべきなんです。」
「…たっ、楽しく行こうぜ。せっかく二人っきりなんだし。」
「だから…っ。」
言いかけて、流石に大人げないと思ったのか。漆は側頭部に手をやって、ふぅと息をつく。…溜息をついたことで気持ちが落ち着いたのか、とにかく、と執事は宣言する。
「…くれぐれも浮かれないで下さいね。今日の外出は、あくまで真剣にデートを万全にするための下見なんですから。」
「わ、わかっているっつの。」
答える主人を疑るように、執事はバックミラー越しに不安そうな眼差しを送ってきた…。
数分後。
信号待ちの車内。後部席で、出し抜けに主人が叫ぶ。
「あ…っ!!」
「うわ、びっくりした…。…何ですか、紅貴様。急に大きな声を出さないで下さい。」
紅貴は運転席の肩の部分を掴み、ぐっと前のめりになって執事に訊く。
「お、お前…!!まさかと思うけど、燕尾(その)服で出かけるわけじゃねぇだろうな!!」
至近距離で見つめられても、執事は涼しい横顔を決して崩さない。
「は…??いえ、このままのコーディネイトでご一緒させていただくつもりでしたが。」
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