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「…ああ、デートにうってつけのものがありますよ。今、人気のある漫画原作の恋愛映画です。今日が上映初日で、次のデートの日もやっていそうですね。」
よし、と一声あげて、紅貴はすっくとベンチから立ち上がる。
「そうと決まれば、今からお前と見に行こう。」
「…私と、ですか??」
即座に半眼になる執事の顔には、毛筆で『男二人で恋愛映画って…何故??』と貫禄たっぷりに書かれていた。
決まってるだろ、と主人は拳から一本立てた人差し指をびしりと執事に突き付ける。
「もし万が一、映画の上映中にオレが寝たらどうする!!後の感想会で紗千香様と有意義な意見交換が出来ないじゃないか!!」
執事、努めて明るく一言。
「…紅貴様が、上映中に寝なければいいだけの話では??」
…痛いところを突いてきた。
が、そんな執事のもっともな言葉に負けるものか。主人はぐっと口をひん曲げ、とにかくと大きな声で叫ぶ。
「何かトラブルがあって、オレが感想を言えないとその後の雰囲気がひっじょうに悪くなるだろっ!!いいから、黙って付き合え!!」
執事はやれやれと首を竦めると、口角を少し引き上げにこりと微笑んだ。
「…かしこまりました。」
漆の穏やかな声に、主人はうんっとわざと大きく頷いてみせた。
数時間後、
「…って、言ったのに。」
執事は、ぽつりと呟いた。ここは映画館のシアター。薄暗いシアターの中で上映している恋愛映画は、主人公の女の子が好きな相手に告白するというクライマックスのシーンだ。…だというのに、執事の右隣に座って大きなポップコーンのカップをしがみつくようにして持ち、香ばしい匂いに包まれた紅貴はガーガーと大きなイビキをかいて絶賛昼寝(昼前寝??)中である。
しかも、眠っている紅貴はじっとする様子がない。狭い座席にも関わらず、絶えず寝返りを打ち、小さく低く唸ったかと思えば、唐突に片腕や頭を振り回す。…漆、主人の横が空席で本当によかったと執事は心底安堵していた。
爆睡する主人の隣で執事は映画に目を釘付けにしつつ、周囲の警戒を緩めず、気配だけで紅貴の攻撃を上半身や首を捻ったり、片腕で見事にさばくことでヒョイヒョイと避けていった。アクション映画顔負けの無音の戦闘に会場にいる誰もが気づかない。
エンドロールが流れだす頃には、紅貴の寝癖の悪さも落ち着きを取り戻していた。流石に映画から視線を外した漆は、主人の横顔を見つめ、ふっと口元を和らげた。
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