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首をクイッと斜めにして、執事は頼りなさそうに主人を見据える。婚約の行く末を案じているのだ、とわかっていても、胸の鼓動が弾むのを紅貴は止められなかった。
「…知っている。…というか、何だ、その…。お前、そういや紅茶好きだったっけな。」
「え??ええ、まあ…。言われてみれば、好きですね。珈琲より紅茶派です。」
「そっか。…いや、何美味しそうに飲むなと思って。」
主人の台詞に拍子抜けした表情を浮かべていた執事だったが、数秒後。何故かみるみる内に赤面しだした。
「…えっえっ??こっ、紅貴!?僕、そんなおかしい顔してました??」
「え??いや…。」
『美しかった』と言いかけて、紅貴は勢いよく片手で己の口を塞いだ。主人の反応を見て、漆はさらに不安をグレードアップさせる。
「えっ!?えっ!?何っ??何なんだよ、紅貴!!僕、そんな変な顔をしていたの??」
漆は血相変えて、頬に手をやる。連鎖反応の如く、二人であたふたしだす。
ううんと、と紅貴は執事を安心させようと言葉を探す。この上なく綺麗だった、惚れた、好きだ、かわいかった…どれも見事に言ってはいけないワードになってしまう。
「どっ、どうしよう。僕そんな…はしたない顔していたなんてっ!!」
パニック寸前の執事に、主人は何とか声を振り絞る。
「大丈夫だって!!へっ、変な顔じゃなくて…。」
大きな声を出したので、周りの客が一斉に主従のテーブルを振り返ったが、いかんせん張本人達は気づいていない。
「…だらしない顔していた。」
言った瞬間、執事にガッと両頬を掴まれた主人は、その後嫌というほど顔を真横に引っ張られた。
「しょ~がないだろっ!!ここの紅茶ほっぺが溶け落ちちゃいそうなほど美味しかったし!!だらしない顔にもなるっての!!」
「いひゃいいひゃい、みにゃもろ、いひゃいって!!」
まだ怒りの余韻が冷え切っていなさそうな執事が相手の頬を離す。主人は素早く、患部を両手で摩ってやった。
「痛ぇ~…。本気でやる奴があるかよ。」
「…紅貴が僕を面白がるから悪いんだよ。」
刹那。二人の視線が絡み合う。…二人は、どちらともなく噴き出していた。
「…紅貴ったら、僕に…だ、だらしない顔って!!」
「源が先にはしたないなんて口走ったんだろぉ~??」
腹を抱え、涙目になってゲラゲラ笑いあいながら、二人の濃密な時間が過ぎていく…。
「…そういえば、こういうこと一回あったね。紅貴が十歳、小学校四年の時だっけ??」
「あ゛~っ!!お前、それ言わない約束だろ!?」
「いや、二人っきりなんだから別にかまわないだろう??あの時、実はさ…。」
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