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数時間後。気づけば、店の純白のティーカップの底に紅茶の茶渋が残るまで二人は延々と昔話に花を咲かせていた。双方、腹がよじれるほど笑ったところで、腕時計をちらと見遣った執事の顔色がかわる。
「…いけない。紅貴、もう五時を過ぎる。御屋敷に帰らないと。」
「え~??紗千香様とのデートプランはぁ~??」
「…それどころじゃないだろ。夕食に遅れ…。」
言いかけて、幼馴染だった漆は谷ヶ崎家次期当主専属の執事の顔に戻ってしまう。
「御夕食に遅れてしまいますよ、紅貴様。」
「…はいはい。」
口を尖らせながら、紅貴は嫌々席を立つ。…やはり、能面の如き執事の顔をした幼馴染は苦手だ。一度心を開いてくれたのなら、こんなにも楽しい時間が過ごせるのに。
「駐車場まで距離がありますが、歩けますか??」
「ヨユー、ヨユー…。」
答えつつ、紅貴は瞼を落とし、伏し目がちになる。…本当に大好きな人とのデートは、名残惜しくもここでおしまいらしい。
「私は会計を済ませて来ます。御手洗いはどうなさいますか??」
「…行ってくる。」
「店の出入り口でお待ちしております。」
恭しく一礼する執事に、紅貴は胸の強いモヤモヤを感じずにはいられない。数分前まで、敬語もお辞儀もなく過ごしていた。…なのに、すぐさま何千メートルと距離を置かれてしまうのか。
紅貴はトイレを済ませ、店を出る。すると、出入口の脇で待っていた漆がやって来て、前を歩く。…普段通り。
小さい頃はよかった、と紅貴はぐしゃりと顔を歪める。二人ともどちらが偉いなんて意識せずに過ごせた。いいや、影で漆は親から言い聞かされて育ってきたのかもしれない。だけれど、『谷ヶ崎の子供』として、一緒に並んで歩けていた。大人になって、強固だったはずの絆がどんどん脆く弱い繋がりになっていく。
数メートル前を歩く、漆の背中に青年は手を伸ばす。この距離では届かないと知っていながら。それでも…、伸ばさずにはいられない。
突然、ふっと漆が振り向いた。紅貴は慌てて片腕を引っ込める。すると、前方をいく執事は立ち止まり、辺りを心もとない様子でキョロキョロと見渡しだす。
「…どうした??」
執事の異変に気付いて初めて、紅貴も気が付く。時間帯からか。デパートは俄かに賑わいだしていた。行き交う人がたくさんいる。老若男女問わず。買い物に来たか待ち合わせをしているのか。一人の客もいれば、親子や友人同士、カップルの二人組。三人以上の家族連れや友達の集まり。はたまた、仕事の一環で来ているらしきスーツの面々も見受けられた。
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