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紅貴は遅ればせながら、頭上のテラス上階へと目を遣る。…ややして、ボディーガードの一人が顔を出した。仲間や少し遅れて顔を出した黒岩に向かい、無人であること、人気がないという旨を伝えた。やれやれ、と黒岩と漆は顔を見合わせる。…この状況からして、犯人は無人の上階テラスに位置取りし、タイミングを見計らってレンガを落としたらしい。目撃者はいそうになかった。第一、犯行を目撃している人間がいたら叫ぶなり何なりしていそうなものである。犯人は目立つ上に奇異な行動をしているのだから。
漆は黒岩と言葉少なに喋った後で、主人の下に駆け寄り、耳元で話す。
「…紅貴様。今回のデートはここで中止にしましょう。」
予想外の出来事が起きた。犯人側の要求は未だ判明してはいないが、一端退くのが筋だろう。今回の標的通り、紅貴が狙いなら遠瀬院を巻き添えにするわけにはいかない。
主人は執事に頷きだけ返し、黒岩に導かれてその場を去っていく遠瀬院に微笑みと小さな会釈を贈った。遠瀬院は戸惑いの表情を隠しきれないまでも、弱々しくも可憐な笑みを返す。
デパートの駐車場で、雇っていたボディーガードを付近で待機させ、停めていた車へと急ぐ。念のため、とピリピリした雰囲気の漆が後部席の扉を開け、安全を確認してから主人を座らせる。続いて、漆が運転席に腰かけ…た、ところで空気が変わった。
「…申し訳ありません、紅貴様。」
下りてください、と即座に言う執事に、紅貴は目を瞠る。
「…何かあったのか。」
執事は静かに目を伏せ、瞬時に周りへと視線を泳がせた。
「…座席の高さやバックミラーの向きなど、微妙に配置が変わっております。」
「はあ??」
主人は不服そうに座席にもたれる。ずぶずぶと柔らかなシートに埋もれる感覚が心地いい。
「…それはお前の感覚の違いじゃないのか??ほら、オレが狙われて動揺していて…。」
「そうかもしれませんが、車に細工でもされていたら大変です。紅貴様、この車はダメです。下りましょう。」
渋面をつくりながら、主人は快適な座席に別れを告げた。車を下りると、ひんやりとした駐車場独特の空気が紅貴の身を包む。速攻でやって来た硬い表情の漆に導かれ、待機していたボディーガード数人と共に駐車場を後にする。
…主人は動揺の声を上げた。
「おっ、おいっ!!…あの車を捨てて、どこに行くんだよ。」
「牧原さんに迎えを頼みましょう。デパート前の道路なら交通量もありますし、相手は何もできないはずです。そこまでボディーガードの方にも引き続き護衛していただきましょう。帰りは、牧原さんと二人でお屋敷にお帰り下さい。」
「二人で…って、お前はどうすんだよ。」
隣の執事は、あっけらかんと答える。
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