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「…そういえば、黒岩様はあの時、現場におりませんでしたね。電話がかかってきたとかで。席を外しておいででした。」
「では、お前も黒岩もアリバイはないんだな。」
途端、背中の気配が一気に凍てついた。…執事は、主人の思考回路を容易く読んでしまう。
「…私が犯人ではないかと、疑っておいでですか??」
それでも、肩を揉む手つきは柔らかで変わらないリズムを一定に保っていた。…主人はそっけなく返す。
「可能性の話をしている。」
「…正気ですか??レンガが落ちてきた時、私はあなたを庇いました。実行犯だというなら、二階から飛び降りたとでも言う気でしょうか??」
「誰も実行犯だとは言ってない。誰かと携帯で連絡をとっていて、タイミングを指示したのかもしれないしな。」
執事は大仰に肩を竦めてみせた。
「では、次の車の件は??私はずっとあなたや黒岩さんと一緒にいたのですよ??細工する暇なんてありませんでした。…言っておきますが、メンテンナンスの方には実際見てもらっています。後日、証言をとってもいいぐらいです。」
「…車の細工はまずお前が気づいたじゃないか。アレが演技じゃなかったと誰が証明できる??お前は最初にありもしない文句をつけ、オレやボディーガードを車から遠ざけた後で細工をしたんだ。」
的外れな推理ですね、と執事はすまし顔で続ける。
「お言葉ですが、私はあなたに何年も仕えているのですよ。」
ふっ、と口の端で小さく笑みを刻み、主人は両肩から従者の手を剥がした。
「私情で犯人が見えてくるのなら、それに越したことはないな、源。」
皮肉を口にして、紅貴は振り返ると同時に背後にいた従者をギッと睨みつける。
「さらに言えば、お前は十五の誕生日にオレを一度裏切っているだろう。何があなたに『仕えている』だ、そこに信頼がない癖に『仕えている』も糞もない。」
「二年前近くになる御記憶を、いつまで大切に抱えていらっしゃるんです??可哀想ですね。…それほどまでに、二年以上前のあなたは私を信じ切っておられましたか。ただの、専属の執事なだけの一般人を。」
「…っ」
カッと目を見開いた紅貴は、執事の胸元を掴み上げ、憤怒の形相で額を擦り合わせた。…執事は真意の見えない薄ら笑いで、接近戦に応じる。やや遅れて、鼻先にぶわりと例の石鹸の匂いが広がった。
「怒ったらすぐに手が出る。…品のないところは子供の頃からなおりませんね??だからあなたは伴侶を御自身で選ぶことすらできないんですよ。親の背中を追うだけの能無しだ。次期当主の器ではないと、燈様に断じられたのも頷ける…っ」
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