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「日常的に嘘をつき、あなたを陥れるために裏切ったのですか??」
そこで紅貴ははたと遠瀬院家の令嬢を見返す。…何故そんな遠回りな質問をするのか、わからなかった。
「…生きていれば、嘘の一つ、秘密の一つは持つのではなくて??大切なのは、その嘘や秘密の本質ではなくて??悪意に満ちた嘘とあなたを守ろうとする嘘は果たして同一視するべきでしょうか??」
「…何が言いたいのです??」
問いかける紅貴の声が、震え掠れた。遠瀬院は、紅貴の片腕を両手で包み、視線を合わせて根気よく説く。
「そちら側の執事の方がした過去の裏切りは、あなたにとって許しがたいものなのでしょう。…ですが、だからといって今回の一件の犯人かというと、=で繋ぐものではないかと私自身は考えます。」
すっと息を吸ってから、遠瀬院は続ける。
「レンガを落とすような無粋な企てをする輩が、身をていして主人を助けるでしょうか??謝罪にと気を利かせて相手先に花束を贈るでしょうか??…もし、何かするとしたなら私が花束を受け取っている段階ですでに起きていたのではないでしょうか??」
「…。」
黙りこくる紅貴に、遠瀬院はすっぱりと言い切った。
「…以上の点から、源さんはとても良い執事なのではありませんか??」
「ですが…。…なら、どうしてあいつは。」
言いかけて、紅貴は口を噤む。…本心では漆に惹かれている、その心の断片を目の前の聡明な令嬢に看破されそうで恐ろしかった。
紅貴が足元を見遣ると、遠瀬院家の絨毯に散らばった薔薇の花弁が恨めしそうに彼を見上げていた。真っ赤な花弁が点々と落ちている様は、まるで血だまりのようで息がとまりそうなほど美しく、悍ましかった…。
日めくりカレンダーは再び捲り続けられ、両家に不穏な空気が漂う中、遠瀬院家との婚約が決められた8月16日となった。
婚約前のデリケートな時期での不信感とあってか。燈も重い腰を上げた。息子の言い分を聞き入れ、漆を専属の執事から外した。…と言っても、婚約を定める八月いっぱいまで、長い休暇をとらされただけだが。仕方がない。執事親子は住み込みである。唐突にうちの息子が嫌がるから今まで働いてもらっていたがうちの屋敷から出ていけ、とは言えない。だから漆は、次期当主と一つ屋根の下で暮らし続ける他なかった。本格的に追い出すこともできるが、燈はその決定を下さなかった。紅貴は面白くはないものの、不承不承飲み込んだ。
…では、次の執事は~…とも決めきれまい。谷ヶ崎の家の執事は代々源家だったのだから。代わりに燈は執事代行としてメイドの衣笠を息子につけた。
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