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「源、おは…っ」
…紅貴は口を開きかけ、刹那。あっけにとられる。
燕尾服のタイが緩んでいたのか。普段はきっちり着込んでいるはずの漆の燕尾服の胸襟から、ちらりと男の肌が垣間見えた。肌に浮かんでいたのは、明らかなキスマークだった。
「…っ!!」
瞬間、身体の内部にごぉっと熱風が吹き荒れるような音を聞いた気がする。嫉妬の炎はみるみる内に紅貴の身体を包み込み、いっそう激しく燃え盛る。
紅貴は前方の衣笠を突き飛ばし、あっけにとられている男の胸襟を掴み上げた。目を剥く男の耳元で、低く唸る。
「…誰につけられた??」
腹の底でグツグツとマグマが煮え滾る音がする。ドロドロとした感情が、紅貴を唆し、許してはくれない。
「…その、これみよがしにつけている所有の印だよ。誰につけさせたんだ??」
「…っ」
紅貴の射抜くような視線に気づいたらしき元執事は急いでパシッと首筋を片手で覆った。一瞬にして頬は真っ赤に染まり、瞳は主人からの辱めに潤んでいく…。
「これは、その…っ」
「手を退かせ。」
紅貴はドスのきいた声音で命じる。恥辱に震える年上の男は、ふるふると首を左右に振るだけだ。主人は、ごくりと生唾を飲み込んだ。
想像する。
漆の柔肌に誰が触れたか。どうして口づけ、どのように吸い上げ、どんな気持ちで印をつけたのか。想像するほどに怒り狂いそうになるのに、考えずにはいられない。
上書きしないと、と主人は双眸を眇める。
力尽くでも手を引っ剥がし、漆の首筋に噛り付き、他人の痕が残った肌を綺麗にしてやらないと。漆を手元に戻さないと。…そんな身勝手な妄想がはちきれんばかりに膨らんでいく。
印を上書きするだけでは足りないに決まっている。漆に訊かないと。漆の身体に訊かないと。どこをどんな風に触れられたか。どれほど欲をぶつけられたか。…全部、オレのものなのに。
紅貴の荒い呼吸を止めたのは、二人の間に入って叫んだ衣笠の一声だった。
「ケンカはやめて下さぁ~いっ!!」
我に返った二人はそれぞれそっぽを向いて、それまで漂っていた緊迫感をごまかそうとする。衣笠は腰に手を当ててご立腹中だが、紅貴は前髪をかきあげながら異議を唱える。
「…ケンカじゃねぇし。」
「嘘ですよ!!…坊ちゃま、漆君に突っかかっていたじゃないですか!!」
もう~、と両拳を上下にシェイクする衣笠は二人の会話に気づいていないようだった。
ほっと胸を撫でおろしつつ、紅貴はちらっと元執事を盗み見る。漆はらしくないたどたどしい手つきでタイを結びなおしていた…。
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