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紅貴が庭に出ると、玄関先の階段を下りて十メートルほど前には、立派なフラワーアートの会場が存在していた。向日葵はもちろん、ペチュニアやクレマチスなど八月に咲く花が二人の婚約を祝すように花びらをいっぱいに広げて、咲き誇っている。美しい形に整えられたフラワーアーチは、谷ヶ崎家の黒い門から幾つも続く。フラワーアーチの下一ミリのブレもないレッドカーペットが真っ直ぐに敷かれている。レッドカーペットの先には、瀟洒なデザインのガーデンテーブルとニ脚の椅子が添えてある。テーブルの上には、前もって購入済みの紺色のジュエリーボックスが二つ並ぶ。…中身はもちろん、それぞれの指につける婚約指輪が収まっている。
門から一つ目のフラワーアーチの隣には、オーケストラが待機していた。五段目のフラワーアーチの右隣八メートル先には、白い噴水が置かれていた。二段になっている噴水は絶え間なく水を放出し続けており、一段目はたっぷりの水で満たされており、更にその水面には庭師達が用意したのだろう薔薇の花弁が漂っていた。花弁達は色がグラデーションになるよう緻密に計算されており、日光を受けてキラキラと輝く水面に一層の彩を添えていた。
レッドカーペットの左右には、両家の使用人や関係者が集まっていた。…観衆中に、多忙な両家の父親の姿はないが。無論、ボディーガードも等間隔に配置されている。黒服黒サングラスの面々は、口元に笑みを刻みつけながらも、その眼光は爛々と不気味に輝いている。
玄関先の階段を下ったところに佇んでいた紅貴は時間を気にしつつ、衣笠に容姿の最終確認を頼む。あちこちを点検されながらも、次期当主が思い返す相手はただ一人…源漆だった。
あのキスマークは何なんだ、考える度に、紅貴は溜息を精一杯我慢する。誰にされた、何時された、どういった経緯で??…まさか、奴の方から頼んだんじゃないだろうな。悶々とする紅貴の耳に、わぁっと人々の歓声が聞こえてきた。…見ると、門の向こうに高級車が一台停まっている。遠瀬院の車である。黒岩が運転席からそそくさと下りてきて、後部席の扉を大きく開け放つ。…中から、白いパーティードレスを着た、遠瀬院紗千香が下りてくる。
フラワーアーチの近くで待機していたオーケストラが一斉に曲を奏でだす。抜けるような青い空の下。豊かな庭に幾重もの音が重なった生演奏が響き渡る。
遠瀬院がレッドカーペットに降り立つ様は、まるで麗しい蝶が魅力ある花に着地するのによく似ていた。そのまま堂々とした立ち振る舞いでガーデンテーブルまで歩みを進める。
「…坊ちゃま。」
衣笠に背中をどんと肘先で押され、一瞬転びそうになりつつも、紅貴はぐっと堪えて足を進めていく。そのまま、ガーデンテーブル前に二人が並ぼうとした、刹那。
「…見つけた。」
耳馴染んだ声がしたかと思うと、男の短い悲鳴があがった。何事か、と騒めく観衆の中から、見知らぬ小男を羽交い絞めにしつつ、レッドカーペットの中央に躍り出る者がいる。…漆だ。
元執事は涼しい表情で、目の前で唖然としている両家の子息と令嬢に向き直る。
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