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「おい、源。一体これは何の…。」
余興だ、と言いかけたところで主人ははたと気づく。小男はブランドのスーツを身に着けているものの、どこか妙だ。背は丸まっているし、髪はぐしゃぐしゃ。一見すると気づかないが、よくよく見てみると両家の関係者でもましてボディーガードでもないとわかる。
小男の最も目を惹くポイントがあった。小脇に抱えた籐のバスケットである。小ぶりなかごにごろごろと詰まっているのは…鶏卵だった。卵は、パッと見、十以上はある。婚約の場に持っていくには、どう見ても不似合いな品だった。
漆は無に等しい表情で、恭しく一礼し、不躾ながらと前を置いて喋りだす。
「…この者が紅貴様に向かって卵を投げつけようとしておりましたので、取り押さえました。きっと、このカゴの中身は生卵なのでしょう。」
観衆が一気にざわめく。ボディーガードの漆を見る目が変わった。一斉に皆の視線が小男に集まる。…あまり礼儀正しいとは言い難い小男は、片腕を背に回された元執事に固定されながらも、負けじと喚く。
「おっ、俺は何も喋らねぇぞ!!」
背後で小男の主導権を握る漆は、にこりと好青年の笑みを浮かべた。
「…お好きにどうぞ。」
言っておきながら、次の瞬間には小男を地面に組み伏せている。片腕を可動域限界まで折り曲げられたのか。小男は苦痛に呻く。元執事は小男の悲鳴を小鳥の囀りの如く聞き流しながら続ける。
「ですが、あなたの片腕一本へし折ったところで、谷ヶ崎家はあなたへの慰謝料など子供の駄賃くらい簡単に出せるということをお忘れなく。」
不気味なほど朗らかに微笑みながら、小男に語りかける元執事は異様なほど迫力があった。小男はレッドカーペットに皺が寄るのもかまわずバンバンと平手で殴りつけながら、喚く。
「わかった!!話す!!全部話すから、頼む!!離してくれ!!」
はっ、と鼻先で笑って、元執事は上半身を下げ、小男の耳元で低く囁く。
「…誰に物を言っているか、よく考えてから喋るんだな。」
近い距離にいる紅貴と遠瀬院くらいしか聞こえない声量だった。離れている上に人の喋り声が充満している観衆達には漆の声は聞き取れなかっただろう。…瞬間、小男は大人しくなる。
元執事の尋問は続く。
「誰に指図されたのです??…それとも、考え難いですが、あなた一人でやったとでも??」
小男はふん、と鼻を鳴らそうとして、気配を察した漆が組み伏せる力に負荷をかけた。一頻り苦痛に顔を歪めた後で、今にも泣きそうな小男はわかったわかったからと繰り返した。
「…俺は頼まれてやっただけだよぉっ!!レンガを落としたのも、谷ヶ崎の車に細工したのも俺だ!!」
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