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「…っ」
ごめんな。…オレの好きな人はお前だから、この婚約は絶対にうまくいくわけがなかったんだ。
喉まできた台詞を必死に飲み込んで、主人はただただ漆が泣き止むのをじっと待ち続けていた…。
三日後。風が涼しくなってきた夕方。紅貴の部屋に呼び出されベッドの枕元に立った元執事は、素っ頓狂な声を出した。
「…担当を戻す、ですか??」
稀に見る意外そうな表情の漆に新鮮さを感じつつ、主人は天蓋ベッドの上で胡坐をかきつつ答える。
「おう…。」
婚約破棄が決定されてから、三日目。燈は内情に頭を抱え、事後処理に奔走していたが、紅貴としてはざまあみろ以外に別段言いたいことはなかった。
婚約の件が取り払われ、漆の裏切りがなかったとわかった今、現金なもので主人の関心は元従者にあった。
主従関係をビジネスと突っぱねられて、苛立ちはなかったかと問われればあるのだが、こうも清々しく言い切る相手を見るとむしろ興味がわいてくるというものだ。
忙しすぎて息子の言い分も満足に聞けていないだろう燈から許可をもらって、次期当主は漆を自らの執事の座へと戻そうとしていた。
どんな反応が返ってくるかと思いきや、執事は困惑した様子で口元に片拳を持っていっている。喜ばねぇのかよ、と内心ツッコミをいれつつ、紅貴は試しにと小首を傾げ、従者にかまをかけてみる。
「…嬉しくねぇの??」
一目でわかるくらいぎくっとしたかと思うと、執事はすぐに姿勢を改めて、弱々しく微笑む。
「いッ、いえ…。突然の報告でしたので。」
「・ ・ ・。」
コイツ見知った人間限定で、唐突な質問に対して弱いんだよな、と考えつつ、主人は続ける。
「…それはそうと、お前体調はどうなんだ??」
執事はくすりと微笑んで、口を開く。
「最近は、大分回復して来ました。やはり、ただの疲労だったようです。」
主人は首をちょっと捻って、言及しようとする。
「…本当か??」
執事は、穏やかな笑みで頷いてみせた。
「…心配性な方ですね。大丈夫ですってば。」
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