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漆の上半身が傾ぐ。前のめりになったところで、剥き出しの耳にふっと息をかけてやる。
「…っひぁ!!」
あがった甲高くも小さな悲鳴にどきりとしたのは、悪戯を仕掛けた紅貴の方だった。漆は赤面し、息を吹きかけられた片耳を片手で覆いつつ、主人を警戒するかの如くじりじりと後退していく…。
「も、もぅ…っ!!あなたって人は…っ!!」
涙目で訴える漆に、主人はドギマギしつつも大声で笑い飛ばし、その場を誤魔化す。
「ははっ!!…源、お前さては擽られるの弱いだろ??」
「…小さい頃から一緒に育てられているんですから、あなたそのぐらい知っているでしょう!?」
ぷんぷん怒りながら、執事は主人の自室を後にする。…執事と思しき足音が遠ざかるのを聞き届けてから、紅貴はベッドの淵に腰かけたまま真横に倒れた。ベッドの布団が、主人の身体の重みにぼすんっと柔らかな音を立てて凹んだ。
漆の短い喘ぎ声が、主人の頭で何度も再生される。それもご丁寧にエコー付きで。
「…一々、かわい過ぎんだろ!!」
主人は一声叫んで、ベッドの布団に顔を押し付けた。
谷ヶ崎紅貴は、夢を見る。
毎晩、同じ夢だ。
紅貴の自室。床は大理石。更にワインレッドの絨毯が広がる。天井に小ぶりなシャンデリア。レトロな机、ガラス製の本棚、箪笥。…どれも紅貴の御眼鏡にかなった一品だ。
奥の天蓋ベッドに、夢を見ている谷ヶ崎紅貴は眠っていた。
紅貴の寝ている天蓋ベッドの真横の壁。そこには、大きめのテラスに続く窓がある。しっかりとカーテンが締まってはいるが、隙間からガラス越しに漏れ出る月光が紅貴の横顔にかかっていた。
身体にかかっている布団は、少年が何度も寝返りをしたからだろう。腰までずり下がっている。その内、紅貴の様子にも異変が現れる。何度も落ち着きなく寝返りを繰り返したかと思えば、よほど寒いのか。自分を抱くようにして二の腕を掴み、小さく震えだす。
八月第五週。昼間の熱が収まりつつあるとはいえ、夜はまだ空調無しでも過ごしやすいとは言い難い。効きすぎた空調は、誰も止めれはしないはずだった。
突如、窓の横の壁際からすっと腕が出てくる。乏しい月光を頼りに辛うじて見える影の形からして、その人物は燕尾服をパリッと着こなしているとわかる。
人影はベッドの上の紅貴に、丁寧な動作で彼の布団を肩の高さまでかけなおしてやった。
人影は一端身を引くと、今度は紅貴の顔を覗き込むようにする。…顔を確認したかと思えば、人影は小さく呟く。
『おやすみなさい、紅貴。』
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