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アイスを買いに、執事は紅貴の要望を粗方訊いてから部屋を出ていった。紅貴は十分時間が経過した後で、勉強机前の椅子から立ち上がると天蓋ベッドに勢いよくダイブする。
「…さぁて、ゲームでもしよっか…。」
な、と零しかけた紅貴の耳元で、昔聞いた燈の声がした。
『紅貴…。お前はαの家系に生まれた忌み子だ。私のいう通りにしなければ、お前は近い将来、谷ヶ崎の家を壊す人間となるだろう。』
「…。」
すっと、紅貴の顔から感情が抜け落ちる。…紅貴はしばらく黙った後で、ベッドから下りて、何者かに操られているような覚束ない足取りで勉強机に戻ってきた。椅子に座り直し、机の端に転がっていたシャープペンシルをぎゅっと握ると、再び問題集に向き直る。
問題と向き合っていく内、紅貴の意識は自分と執事の関係について考えるようになっていく…。
紅貴にとって、執事は長年の片思いの相手である。しかし、その前に“自分の執事”でもある。
今まで、紅貴がとる道は二つに一つだった。前者は家の者から捕まえられるのを承知で漆の手を取って、谷ヶ崎の家から逃げるか。後者は生まれ持った宿命を受け入れ、立派な主人として漆と一生共にいるか。…どちらにしろ、恋人として円満に終わる夢は、叶わない願いである。
次期当主はてっきり、漆は自分のことを何とも思っていないと考えていた。…誰とも付き合わない代わりに、こちらに靡く素振りも一切見せない。
ところが…だ。
先日、婚約の話が進んだ時に風向きが変わってきた。部屋の天蓋ベッドに主人を押し倒して、従者は確かに言ったのだ。
『…私はあなたが好きなんですよ…っ』
…咄嗟に思い出してしまい、紅貴はちょっぴりニマニマした。
『…あなたが生まれてからこの16年、一時たりとも忘れられなかったのに。』
立て続けにすまし顔がデフォルトの漆からあんな台詞が聞けるなんて、とニマニマが加速していく紅貴。
『抱きたい、犯したい、抵抗するのを無理矢理私のものにして一生部屋に閉じ込めておきたい…っ!!』
…そこまで思い出して、紅貴は深々と頭を抱えた。
「いや…、これはちょ…っ、ちょっとじゃなくて大幅に困る…っ!!」
持っていたシャーペンシルのノック部分をギリギリと噛んで、紅貴は悶々と悩み、結果独り言が唇の端から漏れていく。
「そりゃ漆の好きって気持ちはありがたい。…両想いだしな。はっ!!両想いなのか!!」
両想い、という言葉に顔の筋肉が弛緩していく紅貴だったが、すぐさまいやいや、と頭を振る。
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