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「待て。…だとしたら、漆の父親は前日に自殺未遂をした息子をお見合いの席に引っ張っていくつもりか??そんな馬鹿な!!」
あなたが一番わかっているんじゃないのか、と牧原は大きく目を瞠った。
「…使用人としてここ数年あなた達主従を見ているが、正直言って距離感がおかしい。周りが気づいていないとでも思ったのか??依存し過ぎているんだよ、お互いに!!…だから、漆君の父親だって手を打った。あなたの婚約が破棄されたから、余計に心配して…っ!!」
そんなものは取り越し苦労だ、なんて反論できず、紅貴は言葉に詰まる。だけど、と最後の足掻きを行う。
「…だけど、首を吊ろうとした息子だぞ??まだロープの痕も消えていないはずだ。どうしてそこまでするんだ??」
「婚約破棄の一件で、坊ちゃまも目の当たりにしたろう。主人と使用人のあってはならない関係を…。漆君の父親も何より恐れているんだろう、あなたと自分の息子の駆け落ちをだ。」
「…。」
項垂れる主人を見かねてか、牧原の逞しい肩からぴょこっと顔を出して、衣笠が補足する。
「…執事長、ロープの痕は服と化粧でどうにかするって言っていました。でも、そもそもがロープの痕を誤魔化せたらいいなんて話ではありません。漆君自身が望んでいないお見合いを強要するのが問題なんです。」
私達使用人だって執事長と言い争いました、と涙目の行動派メイドは言い募る。
「でも、執事長、話を一切聞いてくれません。漆君はαの性を持つ希少な人間で、その血は絶やしてはならないの一点張りで…っ。」
悔し気に下唇を噛みしめる衣笠の肩を、彼女の背後に回った牧原が黙ってそっと手を添える。…衣笠はふっと目の前の主人を見上げた。衣笠の不安げな瞳が揺れた。
「…もしかして、漆君の自殺の原因や心因性ストレスって、お見合いの件でしょうか??」
執事長にも伝えたけど聞き入れてくれなくて、と呟く衣笠に、主人は緩々と首を左右に振る。
「…いや、多分お見合いの一件ではないと思う。無関係ではなさそうだが。」
期限が迫りつつあるお見合いが嫌なら、執事が直接紅貴に言ってやめさせればいい。漆の父親はきっと違う人物の紹介をしてくるだろうが、今回の見合い自体が自殺をするほどの理由とは思えなかった。
それより、と顎に手を置いて、紅貴は静かに目を眇める。…主人が気になっているのは、執事のあの質問の答えだった。
『…ところでお前さ、何か悩み事があるんじゃないか??』
『私には、一生解けない呪いがかかっているんです。』
「…呪いって、何だ??」
紅貴の小声は、使用人二人には届かなかったらしい。
「えっ??」
「坊ちゃま、今なんて??」
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