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我に返った紅貴は、使用人達に答える。
「…何でもない。そうか、見合いの一件はわかった。じゃあ、病院には行かないでおこう。」
紅貴は更に続ける。
「支度も出来たし、朝食をとりに階下に行くとするよ。」
主人の反応に、使用人達はそれぞれ顔を見合わせる。
「びょ、病院に行かないって…言いました??」
「朝食をとるって、坊ちゃま。それじゃ、漆君のことは??」
追いかけてくる二人を煩そうに片腕を振って遠ざける。
「源の件は理解した。…でもな、残念ながらオレには何の権限もないんだよ。源の親父さんが通している話なら、うちの親父が許可しているはずだ。」
オレに異論は唱えられない、と次期当主は肩を竦めつつ、扉に手をかける。後方から、衣笠の悲鳴にも似た声が響いた。
「でもそれじゃあ、漆君は望まない結婚をさせられるんですよ??」
紅貴は一度くっと奥歯を噛みしめてから、廊下に出て、自室の扉を閉めにかかる。扉の隙間から、心配そうな表情の使用人達の姿が見えた。
「…源のことだ。上手くやるだろ。」
冷めた口調で呟いて、自室の扉は閉めきられた。
「坊ちゃまったら、もう…!!」
「坊ちゃまが動けないなら、俺達じゃどうすることも出来ないぞ…。」
閉じた扉から、使用人達の叫びがくぐもって聞こえてくる。そんな扉に額をぶつけ、廊下で一人ぼっちになった紅貴は苦々しげに唸る。
「…オレにどうしろってんだよ、源。」
紅貴の独り言は、誰にも聞かれずに空中に消えていった…。
紅貴は、一から考え直す必要があると考えた。
だから一階で朝食をとり、自室に戻ってから、勉強机の席に着いた。机の上に参考書を広げるでもなく、ただぼんやりと頬杖をついて執事との思い出を振り返る。
小さい頃、母親が亡くなったショックに泣いていた自分を一緒に涙を流しながら慰めてくれた。11歳のクリスマス、サンタにプレゼントを貰えないと訴えたら雪が降っていると教えてくれた。12歳の誕生日、βだとわかって絶望している自分を支えてくれた。15歳の誕生日、事故に遭遇したことから漆が本当はαなのにβだと嘘をついていたのがわかって悲しかった。17歳の誕生日前、自分を監禁したいほど好きなのだとベッドに押し倒されて告白された。17歳の誕生日、婚約が破棄された時、真っ先に泣いて悲しんでいたのは漆だった。
それから、謎の発作。近くに発情期中のΩがいるわけでもないのに、ヒートのような状態になって、度々倒れるようになった。漆を診察した医者は、心因性ストレスが原因だと挙げている。更に、漆本人に悩み事がないか訊くと、“自分には一生解けない呪いがかかっている”と謎の答えが返ってきた…。
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