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そして、昨日。…漆は、二人の秘密基地だった裏の倉庫で、首を吊って自殺を図った。幸い、ロープの腐食が進んでいて未遂に終わったが、自殺の原因はわかっていない。
最後に今日、漆は執事長である漆の父親に連れられ、お見合いをするという。自殺した点や謎の発作の原因が心因性ストレスにある点もあって、使用人達は止めたが、漆の父親は紅貴と息子の主従関係を疑っており、強硬手段に出たという。
そういえば、と唐突に紅貴は思い出す。幼少期、母を亡くして泣きじゃくる紅貴が慰めてくれた執事に、以降ずっと感じ続けている石鹸とミルク、ちょっぴりの蜂蜜の香りについてだ。漆が自殺未遂を起こす直前に主人が問いかけたら、即座に反応して口を塞いできた。
…かと思えば、“疲れたから”と言われ、部屋を追い出された。あの質問にそれほど重要な意味が隠されているとは到底思えないが…。紅貴は首を傾げる。
一つずつ解いていこう、と紅貴は決めて、携帯を手に取った。電話相手は、谷ヶ崎家主従の関係を唯一部外者として詳しく知っている貝沢だ。
『もしもし、谷ヶ崎か??』
「…貝沢、悪ィ。この間の相談の続きなんだけど…。」
『ああ、執事…源さんの話ね。でェ??進展はあったの??』
紅貴はどこから説明したものか逡巡した挙句、素直に疑問点を挙げていくことにした。
「その、色々とトラブルが起きてさ。まだ相手の気持ちを訊けていないんだ。」
だけどさ、と紅貴は喋り続ける。
「婚約前に、オレ、アイツにベッドに押し倒されて…。」
電話向こうで甲高い口笛が吹かれた。
『そりゃ偉く豪胆な執事さんだな。主人相手に??やるじゃん。』
「なんか、『監禁したくなるほど好きだ』って強引に詰め寄られて、参った。それまで、許嫁には愛想よくしていたのに『彼女が憎い』なんていきなり言い出して…。オレも酷く混乱して、思いっきり拒んじゃったけど。…何であんな真似したのか、オレ全然わかんなくって。ごめん。何言っているかわけわかんないよな。けど…とにかく、嫌がらせみたいに迫られて。」
『“みたい”じゃなくて、本当に“嫌がらせ”だったんじゃないのか??』
携帯片手に紅貴は数秒ほど絶句した。ハッと気づくと、急いで携帯を握りなおす。
「な…っ、何で源がオレに嫌がらせするんだよ!!アイツがオレのこと嫌いって言いたいのかよ!!」
電話口で喚き散らす次期当主に、友人はやれやれと言わんばかりに長い息を吐く。
『は~いはい。直情型の思考回路、あんまりよくないよ??…別に俺は、その源さんがお前のことを嫌っているって言いたいわけじゃねぇよ。一つの可能性を考えているだけで。…例えば、その源さん、ベッドに押し倒す前後に主人を避けたような節はなかったか??』
紅貴は目を見開き、思わず携帯に視線を注ぐ。
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