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城下にて8
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「それで、どうする?」
「え、っと……?」
「あの砂兎料理が気になったんだろう? 買って食うのか?」
「あ、じゃあ、折角なので……」
別にお腹が空いていた訳ではなく、単純に魔法で食材を捌いている様が珍しくて見ていただけだったのだが、そういう流れになってしまったので取り敢えず頷いておく。そのまま財布を取り出そうとした少年だったが、アグルムがその手をそっと抑えた。
僅かに肩を震わせた少年に、申し訳なさそうな顔をしたアグルムが手を離す。
「すまない。咄嗟に手が出てしまった」
「い、いえ、あの、……すみません……」
「いや、口で言えば良かったな。金を出す必要はない。ここは俺が支払う」
その申し出に、少年が慌てて首を横に振る。
「いえ、あの、これくらい自分で払いますので……」
「客人に払わせる訳にはいかない。大丈夫だ。経費で落とす」
「ええ……」
こんなことで経費を使って大丈夫なのか、と思った少年だったが、ここ数日のアグルムを見る限り、彼はかなりの頑固者である。断ろうとしたところで、きっと徒労に終わるのだろう。
仕方なくアグルムの申し出を受けた少年は、しかし渡された砂兎のスープを口にした途端、思わず頬が緩んでしまった。辛めのスパイスが効いたスープと砂兎の甘い肉との組み合わせが、思った以上に美味しかったのだ。野菜も長時間煮込まれているのか、口に入れた瞬間にとろけるようだった。
「あの、とても美味しいです。ありがとうございます」
「そうか。それは良かった」
結局、おやつにしては少々重めなスープを綺麗に平らげてしまった少年は、その後もアグルムに連れられて様々な商店を巡り、リィンスタット王国を堪能したのであった。
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