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深淵2
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陣の中心に向かってゆっくりと歩を進め、王獣の正面に立った王は、獣の首を覆う鱗にそっと掌を乗せた。そんな王の腕に、王獣が優しく鼻先を押し当てる。それを受けひとつ頷いた銀の王が、月明かりに煌めく獣の角に左の手を翳した。そして、厳かに詠唱が紡がれる。
「風が運ぶ幻よ 水面に揺れる泡沫よ」
王の奏でる声に、足元の魔法陣からふわりと光が浮かび上がる。まるで月光を受けて輝いているかのようなそれに呼応して、王獣の角もまた鼓動するように光を放ち始めた。
「時の流れを揺蕩い果てし 忘我の終に至れる数多よ」
王獣が目を閉じて蹄を鳴らせば、この場に溢れる光がより一層輝きを増した。
「我は往く者 我は還る者 なれば宵闇を裂く御身の力を以て 世界の理を越えさせたまえ ――――“大いなる流れを駆ける時の使者《ベウラ・エル・ヴェルレディーエン》”」
瞬間、溢れだした光が弾けた。目を灼くような光が空間を満たし、世界が真っ白になる。そんな最中、しかし僅かも怯まぬ王は、白の虚無に向かって手を伸ばした。
今回の過去視の目的は、ウロについての情報を集めることだ。彼は、魔導を含めた帝国の戦力増強に強く関与している可能性が高い上、黒の王に危険視されるほどの人物だが、全くと言って良いほどに情報がない。本来であればそれを含めて黒の王が調査できれば良かったのだが、ウロ相手にそれは不可能だと言う。だが、だからと言って調べない訳にはいかない。もし帝国の力の源がウロなのだとしたら、彼に関する情報なしで戦を仕掛けるのは余りに愚かだ。得体が知れない相手だからこそ、相手が一体何者なのか、どのような力を持っているのか、何を目的としているのか、といった情報が必要なのである。
だからこそ、銀の王は過去を視る。過去視は、“発動者の求めた現象の発生点”を遡って見ることができる魔法だ。つまり、対象とする事象がいつ生じたものなのか判らなくても、事象の設定さえすれば発動することができる。よって、今回のようにウロが帝国にやってきた時期すら判らない状態でも、その現象を対象に設定しさえすれば、時期も合わせた詳細な情報を手に入れることが可能なのだ。
だから王は強く念じる。帝国領にウロが現れた、その時間軸へと遡ることを。
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