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深淵3
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果たして、伸ばされた王の手に何かが触れた。それは、簡素なドアノブである。左手でしっかり掴んだそれを、王が回す。そして彼は、白に呑まれて見えないドアを開け、一歩を踏み出した。彼がドアを潜ったその途端、ぱっと景色が切り替わる。
そこは、帝国の帝都にある王城の一室のようだった。銀の王は、立派な飾り付けがされた部屋の天井近くに浮いている。といっても、実際に浮いている訳ではない。これは、過去の風景をある種の幻として空間に投影しているようなものなのだ。だから、正確には、銀の王の足元の空間にそれが投影された、と言うべきだろうか。
部屋にある豪奢な椅子に座しているのは、今よりも若いが確かに皇帝だ。ならば、ここは恐らく謁見の間か何かだろう。
(……では、あれがウロか)
高い位置に座っている皇帝を見上げている、この世のものとは思えないほどに整った顔の青年。その特徴は、黒の王から聞いたものと酷似している。聞こえる会話に耳を澄ませると、どうやらウロは今、皇帝に自分がいかに有用であるかを売り込んでいる最中のようだった。その中で魔導に関する言及があるのを認め、銀の王は目を細めた。
(話の内容から推測するに、この時間軸はおよそ十年前、といったところか……。やはり、帝国に魔導を指南したのはこの男だな)
そのまま話を聞いていれば、帝国が神の塔を乗っ取り、皇帝自らが神に昇華しようと目論んでいること、ウロがリアンジュナイルを相手取るための手助けをすると約束したこと、そのためにこれから魔導実験を行い魔導の精度を上げる必要があること、といった情報を得ることができた。ここまでは、概ね円卓の王たちが推測した通りである。さすがに皇帝が神になろうと考えているとは思っていなかったが、狙いが神の塔であるという点に変わりはない。ならば、現在進めている防衛策を変更する必要はないだろう。
(問題は、このウロという男が何者であるか、か)
長かった王との謁見を終え、部屋へと案内されていくウロを俯瞰しながら、銀の王は思案した。
(このままウロを見続けるべきか。それとも、帝国側に探りを入れるべきか。……いや、先程の様子では、ウロの来訪は帝国にとって予期せぬ事態のようだ。であれば、やはり私が見続けるべきはウロ。この男が何者で、何を考え、何を目的としているのかを探る)
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