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深淵5
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「あれ? もしかして驚いてる? あー、そっか、そうだよね。この魔法、干渉値を減らすために過去を覗くだけに留めてあるやつだもんね。タイムスリップじゃないもんね」
一人納得したように頷いているウロを前に、銀の王の背中を冷たい汗が伝う。この上ない想定外の事態に、老練の王は聡明であるが故に次の手を出しあぐねていた。ここで攻撃行動に出るのは簡単だが、投影物でしかない過去の一幕において明確に個として己を確立してみせた生き物に対し、自分の持てる何かが通じるとは考え難い。そもそも、王の側からすれば、これは投影でしかないのだ。向こうは王に触れられるが、王は向こうに触れられない、という可能性も十二分に有り得る。ならば、尚更手を出す訳にはいかない。向こうが何を考えているかは判らないが、危害を加えようとした相手を見逃してくれるとは思えなかった。
黙したまま、ただ相手を見返すだけの王に、ウロがこてりと首を傾げる。
「どうしたの? ……ああ、そっか。タイムスリップって言葉はこの世界にはないんだっけ? ん? というより、概念自体ないのかな? この世界、過去にはかなり跳びにくいようになってるもんね。しかも今は誰かさんのせいで事象固定されちゃってるから、ほとんど不可能かも」
ウロは世間話でもするような調子で話を続けているが、耳に馴染みのない内容に王は困惑していた。勿論王はその困惑を表に出すような真似はしなかったが、それでもウロには王の心情が手に取るように判ったのだろう。彼は王に向かって、愛想の良い笑顔を差し出してきた。
「そんなに困らないでよ。別に僕、今のところ君に危害を加えようなんて思ってないからさぁ。なんなら一緒にお茶でも飲む?」
そう言ったウロだったが、当然ながら銀の王からの反応はなく、彼はやれやれという風に肩を竦めて見せた。
「もしかして、僕が一体どの時点の僕だか判らなくて気になっちゃってる? それなら安心して良いよ。僕はちゃーんと、君が視ようとした時間軸の僕だから。そうだなぁ、多分こういう状態になるのって十年後くらいだと思うから……。うん、今の君からしたら、僕は十年くらい前の僕ってことになるかな」
そう言ったウロに対し、王はやはり何の反応も見せない。だが、その内心は穏やかではなかった。
(何故、私と自分との間の隔たりが十年だと判る?)
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