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深淵7
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呼吸すらも許されないのではないかと錯覚しそうなほどの緊張感が、王を襲う。だが、この状況にあっても尚、王は欠片も冷静さを失わなかった。
(確かに、この男は脅威だ。だが、相手に惑わされることはない。私はただ、今この瞬間に為すべき最善をのみ見出せば良いのだ)
そうだ。今すぐこの男を倒さなければならない訳ではない。少なくとも、それは銀の王の役目ではない。今の王がやらなければならないのは、このウロから僅かでも多くの情報を持ち帰ることだけである。
浅く息を吐き出して相手を見据えた王を見て、ウロが小さく笑う。
「うーん、ご立派。防衛装置の役割を担ってるだけのことはあるなぁ。僕には十年後のことは判んないけど、どうせ十年後も君みたいな王様が揃ってるんでしょ? それも多分、若い王様が多いんだ。違う? 違わないよね? 若くて優秀なのが揃ってるでしょ? あ、でも金の王様は未熟かも。だってその方が不自然じゃないから」
つらつらと並べられる言葉たちに、銀の王の指先が無意識にぴくりと震える。そして彼の顔から、徐々に血が引いていった。
「いやぁ、可哀相だな。可哀相だよ。だって、基本的に若い人が王様になることってあんまりないだろうに、若い王様がたっくさん。君たち人間はどうしても感情を捨てきれないんだから、王様なんて荷が重いだけなのにね」
そう言ってウロが微笑んだ瞬間、銀の王は戦慄した。かつて勇名を馳せ、今もなおその名声が衰えたことのない王が、心の底から恐怖した。
銀の王は、知ってしまった。現在の円卓の国において誰よりも王として在る時間が長かった彼は、誰よりも王という生き物に近かったからこそ、理解してしまった。王として、断片的に与えられる情報を冷静に迅速に正確に繋ぎ合わせてしまったが故に、答えに辿りついてしまった。
目の前にいる“これ”が、どういう類のものなのかを。これの狙いが、何であるのかを。
そしてそのことをウロも正しく理解し、彼はうっそりと微笑んだ。
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