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深淵12
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可能性は低い。その言葉すらもブラフであるかもしれない。だが、銀の王は王だ。最良を選ぶことを課され、最良を選び続けてきた。その選択に、迷いを生じさせることすら罪だった。だからこそ、ここで彼が迷う必要はなく、権利はなく、意味はない。
故に、王はそれを選択する。他でもない、己が王という生き物として在るために。
王が小さく息を吐く。真実を知った今の王に、恐らく形式通りの詠唱は必要ない。願いを言葉に乗せたものが詠唱なのだから、願う対象が許しさえすれば、なくたって構わないのだ。それに、これからすることを考えると、詠唱する余裕はないだろう。
詠唱なしで発動するなど前代未聞だが、問題ない。きっとこの過去視は発動する筈だ。何故なら王は、願うべき対象を知っている。そしてそれは、きっと王の意図を汲み取り、その願いを聞き届けてくれる筈だ。過去視は、満月の夜に最も力を増すのだから。
王の魔力が、ぶわりと膨れ上がる。そして彼は、高らかに叫んだ。
「月神シルファヴールよ! この男がこの世界への介入を決めた時間軸へ!」
王の全身から魔力が噴き出し、勢いよく広がる。だが、王が瞬きをひとつしたその瞬間、王から迸っていた魔力が一瞬にして掻き消え、同時に、“目の前にウロがいた”。
投影体として眼下に見えていた筈のウロが、一瞬にして目の前に移動したのだ。驚愕の表情を浮かべた銀の王を、黒と呼ぶにはあまりにも暗い瞳が無感情に見つめる。そしてその手が、無造作に王の右目に突き刺さった。
「ッ……!!」
声にならない悲鳴が、王の口から零れる。矜持から声を出さなかった訳ではない。高次元の存在から初めて明確に向けられた敵意に、声すら出せなくなっただけだ。
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