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深淵14
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帝国の王城地下にある魔導実験所にて、楽しそうに鼻歌を歌いながらティータイムを楽しんでいるのはウロだった。面をつけたまま、その下にある口に器用にクッキーを放り込んでいる彼を見て、デイガーは顔を顰める。
「随分と機嫌がよろしいのですね」
「え? うん。そろそろ十年前の僕が撒いた種が芽吹く頃かなぁって」
「……種、ですか」
相変わらず、得体が知れない男だ。何を考えているか判らないどころか、デイガーは、ウロが何をしてきたのか、何をしているのか、何をしようとしているのかを、ほとんど知らずにいる。そしてそれは、恐らく皇帝も同じだろう。
「うん、そう。種だよ。ま、あのときは最後の最後に意趣返しされちゃったんだけどね。でもなぁ、僕の大っ嫌いな奴の名前出されちゃったからなぁ。あのクソ野郎の力を打ち消すのと、あの子に物理的な干渉しちゃったので、計画してたバランスは実現できなかったけど、少なくとも前者に関しては気分が良かったし、まあ良いや。寧ろよく殺さずに我慢したもんだよ。あの子は殺させようとしたみたいだったけど、さすがにそれに乗る訳にはいかないからね。妥協点、ってやつさ。あそこでバランス修正入らなかったら勝負決まってただろうし、そのあたり、さすがはあの人の采配だなぁって感じ。そう簡単に決めさせてはくれないよねぇ」
そう言ったウロは、面をつけていても判るほどにうっとりとした様子だった。これも今は見慣れた光景だ。やはりデイガーには判らなかったが、どうやらウロは、あの人とやらに懸想しているらしい。尤も、帝国の誰も、ウロの言うあの人が誰なのかは知らないが。
時折、デイガーは思う。果たしてこの男は、本当に帝国に幸いをもたらす存在なのだろうかと。確かに、ウロが来てから帝国の国力は目を見張るほどに向上した。国は発展し、あの円卓の連合国にすらも並ぶのではないかと思うほどに強くなった。
けれど、果たしてウロがもたらしたものはそれだけなのだろうか。この国の行く末を、この男に任せて良いのだろうか。
「ほらほら、何考えてるのデイガーくん? これから最後の仕上げだよー。円卓の連中に目に物見せてやろうじゃないか。なにせ魔導の方はばっちし準備ができてるからね。あとは君の空間魔導で、予定のポイントに転送するだけさ」
一緒に頑張ろうね、と親指を立てたウロに対し、デイガーはただ黙って頷く。
デイガーには何が正しいのかなど判らない。だがそれでも、帝国は戦争を止める訳にはいかないのだ。
そう、全ては、真に平等な世界のために。
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