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王の責務9
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王の脳内に直接飛び込んできたのは、リィンスタット王国全土の映像情報だ。王が用いたのは、王自身が創り出した超広域魔法だったのである。
まるで目で見ているかのように、一度に百を超える映像が入れ替わり立ち替わり切り替わっていく。総数で言えば軽く万を超えるだろう映像情報は、王都付近の都市のものもあれば、国境近くの何もない砂漠のものまであるなど、まるで統一性がなかった。それほどまでに雑多で過密な情報の嵐に、王の脳が拒絶反応を示す。
失神こそ免れたものの、依然として頭はぐらぐらと煮立ったように熱く、脳が掻き回されるような感覚に、胃の中身が喉元までせり上がって来た。
(っ、き、っつ……!)
だが、弱音を吐いている暇はない。一瞬で流れて行く散漫な情報群に食らいつき、てんでバラバラなそれらの位置関係を把握することに注力する。
一度に全てではなく、百を絶え間なく切り替える方式で情報が流れて来るのは、クラリオがこの魔法をそう定義したからだ。魔法の試作段階で王都全域を把握してみようと試したときに、千を超える情報が入って来て失神した経験があったため、減らせる限界まで情報を減らした結果がこの百だった。本音を言えば十くらいにまで落としたかったのだが、いかにクラリオでもそこまでの調整は不可能だったのである。
しかし、百まで落とそうとも、人の脳が処理するには余りにも過多な情報だ。その上、王都内だけですら運用が困難だった魔法を王国全域に無理矢理適応しているとなると、それを処理するツケはクラリオ自身に襲い掛かる。
必死に情報の処理と把握に努めていた王は、とうとう堪えきれずに背を丸め、胃の中のものを吐き出した。曲刀の柄を掴んでいない方の指が、もがくように絨毯を掻きむしる。
だが、それでも王は折れない。
(ここで踏ん張れなくて、何が王だ……!)
強く噛んだ唇から血を滲ませ、半ば這いつくばるようになりながらも、王は頑として魔法を解除しなかった。
(集中しろ! 大事なのはここからだろうが! 俺がミスったら民が死ぬ! そんなことは許されない! だって俺は王なんだから!)
全ての情報の位置関係を把握し、どこで何が起こっているのかを理解し、王軍と自警団の手が回らない場所、瞬間を見逃さない。血反吐を吐きながら見事そこまでをやってのけた王は、ひとつ息を吐き出し、次いで唸るような声を絞り出した。
「風霊、火霊、いくぞ……!」
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