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王の不在5
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「ジルグ団長、海浜の屯所に詰めている団員の半分を魔物への対処に当たらせてください。残り半分は、海浜付近の住民への避難勧告とその補助を」
部屋に入ってきてそう言ったのは、レクシリア・グラ・ロンター宰相だった。
常と変わらない落ち着いた声でそう言ったレクシリアに、ジルグが僅かに眉根を寄せる。
「しかし、それでは海側の守りがなくなります。最も警戒すべきは海だと仰ったのは宰相閣下でしょう」
「おや、その見通しに反した場所で多発的に魔物が湧いている現状において、まだ私のその考えを支持して頂けるのですか?」
柔らかく微笑んで首を傾げたレクシリアに、ジルグが更に顔を顰める。
「馬鹿にしないで頂きたい。俺は貴方が優れた参謀であることを知っています。それに、確かに多発的で厄介な襲撃ではありますが、致命的な物量で押されている訳ではない。……これは明らかな陽動だ。それが判らないほど、俺は未熟ではありません」
ラルデン騎士団の団長は、五人の騎士団長の中では最も若い。それを揶揄しているのならば心外だと言わんばかりの声に、レクシリアは素直に頭を下げた。
「いえ、そういうつもりではなかったのですが、不快な思いをさせてしまったのなら申し訳ない。ただ、貴方の信がどこにあるのかを知りたかっただけです」
「それこそ心外だ。……俺はこれでも、妻と国王陛下の次に義兄上《あにうえ》のことを信頼しています」
真顔でそう言ったジルグに、レクシリアが苦笑する。
「国王陛下は仕方ないですが、我が妹よりも立場が下とは」
「俺は誰よりも彼女を信じ、愛しておりますので」
やはり真顔でのたまった若き騎士団長にもう一度苦笑してから、レクシリアは卓上の地図に指を滑らせた。
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