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頂きに立つもの9
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聡明な王は、アメリアと出会ったときから、こうなるのではないかと常に考えていた。
帝国領土から逃れて来た、何の力も持たないアメリア。あのときの彼女からは確かに魔導の痕跡などなかったし、アメリアが話す生い立ちには何の嘘もないように思えた。だがそれでも、クラリオはこの十年、どこかでこうなる可能性を考えていた。そしてその予感は、天ヶ谷鏡哉がやってきてから一層強いものとなった。
だからこそ、アメリアとあの少年が会話を交わす機会を設けたのだ。帝国が狙う対象と少しでも心を通わすことがあれば、彼女が思い留まってくれるのではないかと、そう思って。
だが、現実はそんなに甘くはなかった。あの少年も、クラリオも、アメリアを繋ぐ枷にはならなかったのだ。
そうしてアメリアは死んだ。紛れもない無駄死にだ。
そもそも、彼女一人では絶対に王を倒せない。王がどんな状況にあったとしても、彼女に負けることはないだろう。それほどまでに力量差があった。だからこそ、彼女を送り込んだ目的が判らない。
十年間潜ませてきた刺客だというのに、あまりにも無駄な使い方だ。もしかすると王を惑わせようとしたのかもしれないが、それこそ無駄ではないか。いついかなるときも、何があっても、王が惑うことはない。ならば何故、彼女が死ななければならなかったのだろうか。
死ぬ理由がない彼女が死んでしまったことも、彼女に信じて貰えなかったことも、何もかもがどうしようもなく悲しくて悔しい筈だ。その筈なのに、もうクラリオには自分の感情が判らなかった。
ぐちゃぐちゃになる頭で、だがそれでも王の魔法はその精度を失わない。引き裂かれそうなほどに心は悲鳴を上げるのに、自分はそれをどこか遠くから認識しているだけなのだ。
クラリオは王なのだから、当然だ。こんなことで王が心を乱す訳にはいかない。そんな王は必要ない。
数多の民の全てを背負うのが王ならば、王はその責を負って立ち続けなければならないのだ。そこに揺らぎや惑いは許されない。王は人である前に、王という生き物なのだから。
「…………王なんて、もう……」
ぽつりと落ちた言葉は、しかし行き先を失ったかのようにそこで途切れた。その先を言うことは、民に対する裏切りだ。だから、王はただ王として在り続ける。
クラリオが流した涙は、彼女の死を前に零れた、たった一粒だけだった。
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