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アグルム・ブランツェ6
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「……揺らぐ水面 霞む陽炎 世界を呑み込む歪んだ鏡」
薄紅の王の詠唱に呼応し、赤の王の周囲にふわふわと霧が立ち込め始めた。そして、女王の傍に寄り添うようにしている王獣の尾が、淡い光を放ち始める。
「空の御手は音を奪い 楔を以て楔を穿つ 解き放たれた産声のもと 辿る標《しるべ》は掻き消えた」
薄紅の王の艶やかな声音が、赤の王の耳奥に届く。普段聞いているそれとはまったく異質のその音は、まるで赤の王の脳を揺らすかのように響き、彼の全身を得体の知れない不快感が襲った。だが、それでも彼は決して目を開けない。僅かでも抗う素振りを見せれば、きっとこの魔法は失敗してしまうと判っていたからだ。
そうしている間にも、赤の王を覆う霧がどんどんと濃くなり、それに比例して赤の王を襲う不快感も増していった。
「されど汝が望むのならば 消えゆく者を夢見るならば」
いよいよ王獣の尾が放つ輝きが増し、詠唱を続ける薄紅の王の額に汗が滲む。赤の王は依然として目を閉じていたが、それでも彼女が苦戦していることが伝わってきた。ただでさえ最高難度クラスの魔法な上に、その対象が円卓の国王という規格外の相手となると、いかに薄紅の王と言えど一筋縄ではいかないのだろう。
「っ、指先に崩れる砂塵の彼方で 永久に惑いし理をなぞれ……!」
全神経を集中させて薄紅の王が最後の詠唱を紡ぐ。そして彼女は、霧に煙る王に向かい、魔法の名を叫んだ。
「――――“世界を欺く真なる幻夢《ノエレイズ・クレア・フローディエ》”!」
瞬間、霧がその濃度を加速的に上げ、一気に赤の王を覆い尽くした。そして暫しの沈黙ののち、内側から膨らむようにしてゆっくりと霧が晴れていく。
完全に霧が消え去ったとき、そこにいたのは、赤の王とは似ても似つかない男であった。
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