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アグルム・ブランツェ9
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薄紅の王が引っかかっているのは、そこだ。今回赤の王が見せた抵抗は、薄紅の王と王獣の力を合わせても突破し得ないほどに強かったように感じられたのに、何故か魔法は成功してしまった。圧倒的なまでに己を保とうともがく赤の王を捩じ伏せ、その一生を見事に惑わしきった。
(手ごたえと経験から判断する限り、確実に失敗する流れだったわ。……それこそ、奇跡でも起きない限り)
しばし目を閉じて思案していた女王の瞼がゆるりと上がり、形の良い唇が薄く開く。
「…………幻惑魔法は確か、月神の領域、だったかしら?」
ぽつりと零した言葉は、王獣に向けられたものだった。だが、王獣は僅かに長い耳を震わせただけで、それ以上の反応を寄越しはしない。珍しく探るような目を王獣に向けていた彼女は、ふぅと息を吐いて王獣へと手を伸ばした。そして、ベッドに横たわったまま獣の長い耳を擽る。
「良いのよ。王には王の、王獣には王獣の、神には神の領域があるもの。他人のそれに踏み込もうだなんて、妾の方がどうかしていたわ」
いやぁねぇ、そんなに疲れているのかしら、と笑いながら、女王が王獣の毛並みに指を滑らせる。それに心地良さそうに擦り寄った王獣が、きゅ、と小さく甘えるような声を出した。
「それにしても、お互いに想定以上に消耗してしまったわねぇ。妾、もう一歩も動けないわ。数日は大人しくしているようかしら。はぁ、退屈ねぇ」
王の言葉に、きゅっきゅっ、と鳴いた王獣が同意を示す。それを受け、女王はふわりと微笑んだ。
「どうせ動けないのだし、いっそとびっきりの美男美女を呼び寄せて、たっぷりご奉仕させようかしら。それなら、妾もシェーンちゃんも満足できるでしょう?」
息を呑むほど美しい微笑みを浮かべてそう言った王に、王獣が一際嬉しそうに鳴く。そんな獣をもうひと撫でしてから、女王は静かに目を閉じた。
(……用心なさい、ロステアール王。この先何があっても、貴方は絶対に元に戻ってはいけないのだわ。妾の魔法が成功したということは、きっとそういうことよ)
ロステアール王に忠告すべきそれを、アグルム・ブランツェに言ったところで意味がないのだけれど。
疲労による睡魔がやってくる中、薄紅の王は胸中で静かにそう呟いたのだった。
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