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むかしむかし
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兄さんは素晴らしい人だった
と、兄を知る人は皆そう言う
…俺は知らない
覚えていないからだ
俺が唯一覚えているのは
…いや、俺が知っているのは写真立ての中の笑顔だけだ
いい人、良い、人。
だけど俺は兄さんがいい人だなんて
……兄さんとは15歳離れていた
俺の事を随分可愛がってくれていたらしい
そして、俺が3つの時に死んだらしい
事故だったそうだ
事故だったと聞かされている
事実かは知らない
俺が小学五年生になったあたりから親は家にあまり帰らなくなった
遊んでいる訳では無い
海外での仕事が増えたからだ
増えた、なのか
増やした、なのか
そんなことは俺には関係ない
兄の死も親の出張も俺が今寂しい思いをする理由にはならない
俺は寂しいのは嫌だし夜だって眠りたい
兄さんが死んでから10年、生きていたら28歳か
あれから10年、俺はろくに眠れてない
お願いだよ先生
俺毎日じゃなくたっていいから
少しだけでいいから一緒に居てよ
ほんの少し、少しくらいは幸せな夢を見てみたいんだ
きっと俺は長くは生きないだろうから
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