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1人と独り
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1人で待つのは寂しいとあいつは言った
どれほど長い間1人で待っていたのだろうか
たったひとりぼっちの家で
夜も眠れず
死者の亡霊に苛まれながら
1人で、何を待っていたのだろうか
「待たせたな」
「…今日はあまり待ってませんよ
昨日に比べたらね」
昨日と同じ場所に立っている
コンビニの中には人はいないようだった
少し肩が強ばっている
意外と緊張をしているらしい
「根に持つタイプだな」
「そうかもしれない」
「……ちゃんと今日1日考えた」
「…っ、ここで話すと誰かに聞かれるかも」
本題に入ろうとしたところで俺の顔も見ずに下を向いたまま子供みたいに主張した
「……そうだな
車に乗ってくれ
家まで…」
「普通教師は俺が言ったような提案には乗らない
でも少しでも、少し…少しくらい俺だって……」
慌てているのか俺に話す隙を与えない
話し合わなくちゃいけないから聞くだけでは先に進めない
「落ち着け坂口
ちゃんと考えたから」
「……起きた時に眠くない
自然に目が覚めるまで、ゆっくり眠ってみたい
楽しい夢を見て、晴れやかな気持ちで目覚めてみたい
こんな夢を、死ぬまでに1度だけ
…叶えたい」
捨てられたような目で見つめられる
運転中でなきゃ目が離せなくなるところだった
10個も下なのになんでこうもこいつは甘ったるい顔をするんだろうか
「……坂口
俺は一応お前の担任をやり始めてから3年だ
けれども、ただの1度も俺はお前に頼られたことは無かった
お前は子供だ
子供ってのは普通大人を頼って生き方を学ぶ
だけどお前はそうしない
理由は2つある
1つ目は頼り方を知らないから
2つ目は生き方を学ぶつもりが無いから」
そう、こいつは自分が生きることにまるで興味を持たない
したいことも無い、将来の夢について聞いた時は夢とは何なのかと質問で返された
子供の癖に未来を見ない
「…それは」
「考えたんだよ
一日中お前のことを
今っていうのはお前にとって何かの節目なんだろう
頼らず学ばないお前が今俺に強引にでも頼るのはそういう事だ」
「…よく、弱みを握られていてそんなに冷静に考えられますね」
「俺はこう見えても本好きだ
ミステリー系が大好物でよく読む」
「なるほど。
そうですね
今じゃなきゃ夢を叶えられないと思った
だから先生に迷惑をかけました
1度実現させたらもう大丈夫だから
……でも」
膝の上で握った白い手には血の気がまるでない
「着いたぞ」
「……そうですね」
到着だ
坂口の家には何度か来た事がある
家庭訪問の度に出てくる小さな焼き菓子
きっと俺が来るのに合わせて用意したものだったのだろう
今でも俺はあの味が思い出せる
「坂口」
「はい」
「今日一日で持って行ける程度の荷物を纏めてこい
必要なものだけでいい
置き場所は後で考えよう
とりあえず着替えと教科書類か」
「……先生」
「ん?」
「いいの?」
ぱちぱちと瞬きをして俺の目をじっと見る
初めて見たなぁ、こんな顔
「あぁ、一日中考えたって言っただろ
突き放すのは、あまり良いと思えなかったからな
お前にとって必要なことならそれでいい」
「…取ってきます
少し、待っていてください」
「大丈夫
今日は俺が待つよ」
あんな捨て猫みたいな顔ばかりされてちゃよく分からない罪悪感で心臓に悪い
ようやく違う顔が見れた
きっと笑うと可愛いはずだ
子供らしい年相応の顔が似合わないはずはない
彼がいつか夢を叶えられるよう、俺が少しの間支えよう
その間少しくらいは笑った顔が見れたらいい
1人と独りは違うから
せめてあいつが独りでなくなるよう
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