アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
-
.
-
へらりと笑って横を通り過ぎる。しかしまた手首を掴まれ、力ずくで離れようとしても、あまりにも力の差が大きすぎる。
嫌悪感を隠そうともせずに睨みつける。
「離してもらっていいですか?セクハラで訴えますよ」
相手はお構いなしに、ただじっと僕の腕を見つめている。
「……お前、腕細すぎねぇ?」
「あ?」
小さく呟いて男の人差し指が、ブレザーの中に入り込んでくる。さらにシャツの中に入ってきて、一度手首を撫で、人差し指と親指とで手首を囲い輪っかを作る。
…それだけ、たったそれだけのことなのに、この男がするとイケないことのように感じてしまうのはなぜだろうか。
「普段なに食ってたらこんなに細くなるんだよ」
「あんたに関係ねーだろ、っていうか、なんか口調変わって……、おい、いい加減に離せって…」
そう言ったとき、ふとスマホのバイブ音が聞こえた。同時に制服のポケットが震えたので僕のスマホだと気づき、もう片方の手で内容を確認する。液晶に『爺』の文字。電話だと気づいた男がやっと手を離したので少し離れたところで通話に出た。その間に屋上から出て行ってくれることを期待する。
「はい」
『あ、霞くん?いまどこにいるの?』
「デート中なんで切りますね」
『君まだ援交してるの?いい加減やめなさいって何度言えば』
「その説教聞き飽きたって何度言えばわかるんですか。あと日中も夜も電話かけてくるなって言ってるでしょう、いい加減学んでくれません?」
『霞くんがやめたら私だって説教なんてする必要ないんだから。それより、今日の入学式が終わったら私の家に来てって言ってたでしょ』
「あんたもヤる気満々じゃないですか」
『私のはそういうのではなくて、ただの入学祝いだから!』
「えぇ?そういうのってどういうのかにゃー?僕わかんにゃーい」
これ以上何かを言われる前にと通話を切り、しかし呼ばれて行かなかったら後々呼び出されて、そっちの方が面倒だなと思い直して、嫌々屋上を後にした。
ちなみに男は通話が終わっても屋上にいたし、何なら僕が出て行ってから煙草を吸い始めていた。人がいなくなるのを見計らって吸ったのだろうか。
「ふん。嫌味な奴」
一度家に帰り、汗でむれたウィッグを外し、カラコンをとって軽くシャワーを浴びる。
鏡に映る、湯気に隠れる自身の姿に目を細め、しかし確かに見る。一度ゆっくり目を閉じて、学校で会話を交えた男の姿を思い出す。
「……」
ゆっくり目を開け、鏡に映る自身の姿を見る。
髪は真っ白で、瞳の色は血のようで、肌も他人よりずっと白くて。その肌に浮かぶのは無数の血痕、火傷の跡。背には大きな翼、首には、――たしか、カスミソウという種の花の刺青。
…人と会うときにはそれらすべてを隠さないといけない。世間の目はそれらすべてを許してはくれないから。
冷たい水に当てられながら、きつく唇を結んだ。
文字サイズ
行間
背景色
×
4 / 12