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18歳以上ですか?
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若槻が持ってきたのは、上下グレーのスウェットという至ってシンプルな服だった。
それだけならなにも文句はないけど、僕は今、猛烈に文句を言ってやりたい。ので、その目的を果たすため、上の服と下着だけを着て、リビングへと戻る。
「でかすぎ!」
部屋に入って開口一番、そう叫んだ僕の方を、怪訝そうに若槻が見る。
「うるせぇ、……おい、下も履け」
「でかい!ウエストも丈も、まったく僕にあってないんだよ!」
そう、若槻が着替えに灯ってきた服が、サイズがでかすぎたのだ。
本来、おそらく半袖なんだろうと思われるシャツは僕の腕のほとんどを覆っているし、そのシャツ一枚で尻まで隠れる。よって、下のジャージを履く必要性が感じられない。
普段なら真夏であろうとも長袖長ズボンを着て、寝るとき以外、決して他人に体の部位を見せることはあり得ないけど、幸か不幸か、先ほどすべて見られてしまったのでそういう気遣いも必要なくなった。ウィッグもカラコンも外したまま、若槻に詰め寄る。
「着替えを用意するなら、もっとサイズの合った服にしてよ!」
「まずは服を貸してくれてありがとうございます、だろうが。それに、ウチにそんなもんあるわけねーだろ。悔しいなら自分の身長を伸ばせよ、チビ」
「なっ、はぁ!?僕はチビじゃない、お前がでかすぎるだけだろ!」
「お前って言うな、その格好のまま外に放り出されてぇのか」
「出せよ、どっかで心優しいおじさんに拾ってもらうから!」
「あ゛?」
ギャンギャンと騒ぐだけ騒いで、まだ言いたいことはあったけど一通り満足したので自室に戻る。引き留めるような声が聞こえないでもなかったけど、今度こそ無視を決め込んで扉を閉めた。
扉にもたれかかったまま、その場にズルズルとしゃがみこんでしまう。
「…何を、……思われたんだろう…」
電気をつけていないせいで暗い部屋。さっきまでの騒がしさからは一転して静かな空間。いやでも風呂場でのことを思い出して、ひとりで勝手に不安になる。
いつもの、一度限りの相手に知られるのとは訳が違う。これから、少なくとも三年は毎日顔を合わせる相手だ。それにしてはバレるのが早すぎた。
…油断していた、自業自得だと言われればそれまでだけど…。
考えがうまく纏まらず、同じ言葉だけが脳内をぐるぐると回る。もうずっと前から言われ続けていた言葉。
『子どもなのに髪が真っ白』
『目が真っ赤、人間じゃないみたい』
『変なのー』
『気持ち悪い』
『…あんたなんて、――…』
「…る、さい……」
その言葉を消したくて、聞きたくなくて、耳を塞ぐ。そんなことをしても無意味なことも、ずっと分かっているのに。
どうすることも出来ずに、ぎゅっときつく唇を結んだ。
そうしていると、段々と眠気が襲ってくる。考えすぎると眠くなる、そのくせ眠りにつけば、何故だか早々に目が覚めてしまう。
だけど今日は、いつも以上に体力を使いすぎてしまった。ドッと溜まっていた疲れが襲ってきて、もうその場から一歩も動く気にはなれず、その場で横になる。
入口で寝ちゃったら邪魔になんのかな…。誰かと一緒に住むことなんてもう何年もなかったから、勝手が分からない。
と、詰まれた段ボールのその奥、でかく置かれたベッドを見て、ぼんやりと考える。そして、ふと思った。
「…あれ。…僕の一人部屋のはずなのに、なんでベッドなんか置いてあるんだ」
その答えを知るより先に、意識を手放した。
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