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盲目
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そんなヒーローは今、卒業ライブに向けて練習に専念している。眼差しは本気、でも口元は楽しくて仕方ないって顔。かわいい。
卒業ライブっていっても、俺たちが卒業するわけじゃない。まだ二年生だもん、あと一年もあるよ。…でも、恋のバンドには、三年生が一人いて、しかも彼は留年生だ。大阪出身のその先輩は、気さくでいい人。いつも放送室で恋の練習が終わるのを待っている俺にも優しくしてくれるし、宮内くんの弟の優司くんにも「おー!優司!飴ちゃん食うかー?」って、ほんとにポケットから飴を取り出して渡してあげたりもしている。 目つきは悪い、身長も……うーん、言いにくいけど低め。だけど男気溢れるその人に、恋は本気で憧れていて、恋はその人と在学中にできる最後のライブってだけで、いつもよりずっと、ずっと、ギターに夢中だ。
何かに夢中な人って本当にかっこいい。恋は下を向くと唇が尖る癖があるから、あーでもない、こーでもないって頭を悩ませてる姿が拗ねてるみたいに見える。胡座をかいて、太ももに乗っけられた真っ赤なギター。恋の色だなぁ、この、男らしい手からさ。あんなカッコいい音を産み出すんだなぁ。
そんな指で、恋は俺にも触れてくれる。
突然告白したら、恋は驚いていた。
俺を避けたりはしなかった。
俺は恋の返事が怖くて、怖くて、俺のほうから逃げた。
あっという間に捕まえられた。
夢中で。
夢中で。
そしたら月日は流れて、相変わらず俺のそばには恋がいて、恋のそばには俺がいる。
「おー、愛ちゃーん、今日も練習見に来たんか!」
「わ、わ、…庄司さん、頭ぐりぐりしないで」
「へっへっへっ、むっちゃさらっさらやな!トリートメントでも使ってんのか!」
大人しく、放送室の床に座って恋のことを見ていただけなのに!
庄司さん、さっき説明した恋が尊敬している先輩。ぐちゃぐちゃに掻き回された髪、むす、としていると恋が大きく口を開けて、笑った。
「鳥の巣みてーな頭になってっけど、それでいーの?王子様?」
「うるせー、恋が直して」
「言うと思ったわ!」
ギターを壁に預けて、恋は膝立ちのまま俺に近づいてくる。俺の目の前に座った恋が、俺の髪を整える、恋、が。
「すき」
「アホか」
口から零れた言葉を0.1秒で拾って、せっかく整えてくれた俺の髪をまたぐちゃぐちゃにする恋の、かわいい耳たぶが赤い。
「練習がんばれー」
「なんでお前そんなご機嫌なんだよ…」
そりゃ、なんたって。あなたを見つめているから。
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