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屋上
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西浦という苗字の家系に生まれておいて、恋と書いてレンと読む中二病全開の名前を付けられた。それは今から17年ほど前の話だけど、もし過去に戻れて生まれたての俺が喋れたら「お願いだから!!頼むから!!普通の名前にしてください!一捻りとか要らないんで!」って懇願する。
そんな俺に夢中な男が一人。
ずっと幼馴染で、好きだって言われて、ヤることやって、…恋人になった。俺に夢中、俺しか見えてない、とろけそうな眼差し。この高校の、王子様。えらく整った顔、立ち振る舞い…エトセトラ。この学校の人間はみんな、この男、木ノ下愛を知っている。
愛に玉砕して泣いてる女の子を何度も見てきた。愛に関しての相談ごとを女の子に持ちかけられたことなんて数知れずだし。でも肝心な本人は、中身が抜け落ちてんのか、本当に心底興味がないのか。なんなのか。ぼーっとしていて掴めない。そこがクールだと言われてんだから、美化って怖い、補正って怖い。プリクラなんてもんがますます信じれねーな!
悩みってほどじゃないけどさ。あいつ、このままでいいのかな。
俺がすき、俺以外は必要ない。そんなこと、平気な顔で言えちゃうんだから、勿体ねーなって思うけど。
すう、はぁ。
お決まりの屋上で、煙草を吸ってる俺。宮内のせいで覚えたこれを、愛は毛嫌いしている。だけどやめられない。好きな人のために、タバコひとつもやめられないような俺に夢中、夢中な、王子様。いつまでも俺をヒーローだと思ってやがるけど、俺は別に愛のヒーローじゃない。もう、恋人なのにな、なんて。柄じゃねーわな。
「庄司に内緒の新曲の話、だけどさ。西浦的にどう?」
「んあー、やや納得いかねー。つーか、庄司くんって目ざといからバレてねぇか不明だし」
「古賀がヘマしなきゃ大丈夫じゃないの。お前、歌える?」
「庄司くんほどじゃねーけど、宮内よりはマシじゃね」
「すげぇ殺したいと思ってるよ、今。」
Gactとして、庄司くんと学校内で演奏できんのは次の卒業ライブで最後で。世話んなったし、すげー尊敬してるし、俺たちは庄司くんに内緒で一曲作ることにしたんだけど、庄司くんがいつも曲をアレンジしてくれるからなんか物足りない。もっと、魔法がかかったみたいな曲を、作りてぇのに。
そう思うと、普段はちゃらんぽらんなあの人が本当にすげー人なんだと思うわけで。
だから、これからも着いていこうと思う、わけで。
「庄司くんが卒業したらさ」
「……うん」
「俺らってまだ、バンドやってんのかなぁ」
「なにそれ、なかなか意味わかんないけど」
「あの人が声かけてくんなきゃ、俺たちこうやってバンドできてねーもん。もし、解散とかになったら、」
「なんないよ。…俺、ついていくもん。庄司くんに」
すぅ。はあ、
宮内の薄い唇の隙間から、煙が漏れた。普段、人間として熱さを感じない宮内の言葉とは思えないそれに驚いていると、宮内はコンクリートにキツイタバコを押し付けて、俺の目を見る。
「西浦は?」
ついていく、とはどういうことだろう。そういえば庄司くん、言ってたな。卒業したら速攻上京する、とか。
え、え?!つまり。え?!
「宮内学校やめんの?!!!?!」
「おバカ。なんでそうなるの」
「だってついて行くって、」
「卒業して。俺も東京にいく。また一緒にバンドしたいから」
「……おま、そんな、バンドで食っていけたらそれはすげー嬉しいけど、…未来無くね?」
「そーだね、安定はしないかもしれないけど。明日も分からないのに、十年、二十年後なんて考えられないし。俺は、どう考えてもベースがあればいいし。それが出来る場所が、庄司くんの側なら、というか。お前達とならいいなって思うだけ」
強制はしないけどね。
と付け足した宮内は立ち上がって、ぱんぱんとズボンの尻をはたく。
まさか宮内がそんなこと、考えてるなんて。
そっか、そうだよな。もう俺たちも三年になるんだし、進路考えないとやべーよな。そうだよなぁ。
俺はどうすんだろ、このまま適当な大学行って、適当に就職して、…?なんかしっくりこねーなぁ。
そうだ、愛、あいつはどうするんだろ。高校を決めるときは、俺が並愛受けるって言ったら、愛も並愛を受けるって言い出した。愛はもっと、もっと頭のいい高校にいけるほどの頭脳はあったのに、「恋と一緒じゃなきゃイヤだ」って、言って。
…愛が心配だ。
もし俺が上京するなんて言いたしたら、あいつもついてくんのかな。
なぁ、愛、お前の人生ほんとにそれでいいの?
愛してくれてんのは嬉しいけど、俺という存在に依存しすぎてる気がする。愛を一言で言うなら、意思がない。自分の意思がない。
それでいいの?なぁ。
最近、愛との距離に戸惑っていたりする。なんでって、だから。
(好きなんだけど、大事なんだけど、このままでいいのか、悪いのか)
俺に全てを左右されるお前が、俺だけしか見えてないお前が、この先どうやって生きていくんだろう。
「俺、行くけど。西浦はまだいる?」
「え?えー!宮内もう行っちゃうわけ?!さーびーしーいー!」
「ちょっ、っと!セーター引っ張んないでよ。次の授業、単位がそろそろヤバイんだって」
「ちぇーっ。俺は、…うーん、考えてぇし。もうちょっとここに居る」
「あっそ。…ねぇ、思い詰めるぐらいだったら後回しにしなよ。その方がいい決断できたりもするし。ね。」
宮内の香水の匂いが、風に攫われて鼻をかすめる。セーターを離すとそくささと屋上を出て行ってしまった細い後ろ姿を見つめながら、もう一度考えてみる。
上京か。進学か。
…。
愛を、ほっとけねーってのもあるんだけど。心配ってのも、あるんだけど。
でも、俺、もしかしなくても。
「一緒にバンド、してたいな」
古賀のすげーバカみたいに上手いドラムとさ、宮内のエロいベースとさ、俺の荒削りなギターとさ、庄司くんのあの声があれば、無敵なんじゃねーかって思えるんだけど。
決断ができねぇのは、やっぱり大事な大事な彼氏様のことが気がかりだからだ。
俺が上京するっていったら、やっぱついてくるかな。お前も上京して何すんのって感じだけど、あいつのことだから。じゃあ俺も。って言うんだろうなぁ。
「はぁ〜〜〜」
「うわ!ため息、幸せ逃げますよ〜俺がキャッチしといたんだけどお隣いい?」
大きくため息をついた時だった。突然背後に人。でっか!!誰!!いつの間にここにいたの!!でかい男が左手に拳を握って立っている。その拳の中はもしかしてだけど、俺のため息ですかね。
にへーっと笑いかけられる。いや、誰だよ、と思ってじっと顔を見つめて見ると。あ。思い出した。この人、庄司くんとなかなか仲良い人だ。えーっと、名前、名前なんだっけ!
「受験生なのに何にもしない人!!」
「え!待ってその覚え方はヒドイ!」
「庄司くんが言ってました!」
「あのチビ……!!!」
「あー!言っちゃった言っちゃったー!庄司くんチビって言われたらすげーキレるのにー」
「いいの!今庄司いないし!」と、言いながら、俺の隣に腰掛けるでかい人。あーあー、名前、名前なんだっけなぁ。
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